10. 等価騒音レベルの測定方法(JIS Z 8731:1999 の概要)

環境騒音についての基本的測定方法は JIS Z 8731 に定められています。JIS Z 8731 は 1957 年(昭和 32 年)9 月 18 日に制定されてから 我国における騒音の測定・評価方法の基礎として広く使われてきました。

最近では地球環境保全の高まりから、世界的に評価基準を統一する流れになり、国際規格 ISO との整合性をとるため順次改訂が進められています。 1997 年の計量法の改訂ではホンから dB 単位への変更、1999 年の環境アセスメント法の制定、1999 年の環境基本法の L50 から LAeq 基準への改訂などがあります。

JIS Z8731 についても、1983 年に続き 1999 年に(国際標準化機構)ISO 1996-1/1982、ISO 1996-2/1983を基礎として改訂されました。その概要についてご説明をします。

 

10-1 等価騒音レベルについて

環境騒音は、鉄道、自動車、航空機、工場騒音など多数の騒音源からの音の重ねあわせであり、騒音の種類の分布は時々刻々と変化します。そこで、JIS Z 8731 では、ある場所における騒音の状態を決定するすべての騒音源からの騒音について、それぞれを単独で扱うことができると同時に全体としても扱えるように騒音の表示及び測定方法を規定しています。 それには、騒音の許容限度、騒音環境を管理することができる基本評価量として等価騒音レベルの採用を推奨しています。

等価騒音レベルを採用することにより、JIS Z 8731 の内容が大きく変りました。また附属書 1 では実在または計画中の騒音源の許容程度を判断するため、環境騒音の観点から、特定の地域に対して「適正な土地利用のための音響データの収集」と騒音レベルの表示方法について規定しています。また附属書 2 では、参考として改正前の JIS Z 8731:1983(騒音レベル測定方法)で規定されていた時間率騒音レベルの求め方、特定の間欠騒音や衝撃騒音の表示・測定方法、定常騒音に対する暗騒音補正の方法について示されています。

 

10-2 用語の定義

用語については9章「騒音計の表示値」の説明で抜けていたもののみ説明します。

(1) 実測時間(measurement time interval)

騒音の状態が一定とみなせる時間を観測時間(observation time interval)といい、また観測時間のうち実際に騒音を測定する時間を実測時間(measurement time interval)といいます。

(2) 基準時間帯(reference time interval)

一つの等価騒音レベルの値を代表値として適用できる時間帯を基準時間帯といい、測定対象とする地域の居住者の生活態様及び騒音源の稼動状況を考慮して決めます。例えば、1 日を昼間と夜間に区別し昼間は午前 6 時から午後 10 時までとすると、その間の 16 時間が昼間を対象とした基準時間になります。この基準時間帯の等価騒音レベルを求めるには、16 時間分の等価騒音レベルを測定すればいいのですが、実用上はサンプリングの概念を適用し、基準時間帯の中でいくつかの時間帯を設定し観測の対象とします。例えば、毎正時から始まる 1 時間毎に基準時間帯を分割した場合、ここの 1 時間が観測の対象とする時間で、これを観測時間といいます。この観測時間についてもサンプリングの概念を適用することができます。観測時間のうち限られた時間、例えば毎正時から始まる 10 分間について実際に騒音を測定することになります。実際に連続的に等価騒音レベルを測定する時間を実測時間といいます。この様にして測定したデータから基準時間帯の等価騒音レベルを算出するにはエネルギー平均によって求める必要があります。また、この概念を 1 日でなく長い時間に拡張して考えた場合が次の長期基準期間になります。

(3) 長期基準期間(long-term time interval)

基準時間帯騒音の測定結果が長期的に変動が少ないとみなせる場合、その測定結果を代表値として用いる時、その対象とする期間をいいます。

(4) 長期平均等価騒音レベル(long-term average sound level) (LAeq, LT

長期基準期間に含まれる一連の基準時間帯の等価騒音レベルを、長期基準期間の全体にわたり平均した値をいいます。

計算式は:

式10-1

式 10-1

(5) 評価騒音レベル(rating level) (LAr,T

騒音に対する人間の反応を評価する場合には、その目的に適した基本量とするため、測定値に補正を加えた量を用いることができます。等価騒音レベルに対象騒音に含まれる純音性及び衝撃性に対する補正を加えた値をいいます。

式10-2

式 10-2

測定された等価騒音レベルに聴感的に純音が含まれていることが明らかで、1/3 オクターブバンド分析でその存在が認められ、隣接するバンドより 5 dB 以上大きい場合に純音補正 K1i を行なって良い。補正値は 5 〜 6 dB とし、補正した場合にはその値を明記する。 また、ある特定の時間帯において騒音に著しい衝撃性が認められる場合には、その時間帯について測定された等価騒音レベルに補正値を加えて良いとされている。 恒常的な音でなく一時的突発音であれば、その部分を除いて等価騒音レベルを求めるといいでしょう。

(6) 長期平均評価騒音レベル(long-term average rating level) (LAr, LT

 一連の時間帯について算出された評価騒音レベルを長期基準期間にわたって平均した値をいいます。

式10-3

式 10-3

 

10-3 騒音の種類

分類方法が大きく変りました。従来は騒音源に関係なく騒音レベルの時間変化にだけ注目した分類でしたが、今回は複雑な騒音源の構成要素に着目した分類となっています。

(1) 総合騒音(total noise) 

ある地点で観測される騒音は、様々な騒音源からの騒音が重なり合っているため、そのレベルの時間変化は複雑な様相を呈します。このようにある観測点において観測されるあらゆる騒音源からの総合された音を総合騒音といいます。今までは環境騒音といわれていました。

(2) 特定騒音(specific noise)

総合騒音は一般に複数の騒音源からの騒音で構成されていますが、そのうちのある特定の騒音源に着目したとき、それからの騒音を特定騒音といいます。例えば各種の交通機関からの騒音や生活騒音など混在している都市環境において、騒音源として鉄道に着目すれば鉄道騒音が特定騒音になります。

(3) 暗騒音、残留騒音

総合騒音を構成する騒音のうち、ある特定騒音(複数の場合もある)に着目した場合、それ以外のすべての音を暗騒音(background noise)と言います。例えばある観測点において鉄道騒音に着目した場合、近くの道路からの交通騒音は鉄道騒音よりもレベルが大きくても暗騒音にふくまれます。なお、総合騒音に対して寄与の大きいすべての特定騒音を除いてもなおかつ残っている騒音は、残留騒音(residual noise)とよばれています。

(4) 初期騒音(initial noise)

例えば、新しく道路ができたとか、高層ビルができたなど、ある地域において、何らかの環境の変化がおきた場合、それ以前の状態の総合騒音をいいます。

(5) 時間的に見た騒音の分類

騒音の種類は時間的な変動の状態により、定常騒音、変動騒音、間欠騒音、衝撃騒音(分離衝撃騒音、準定常騒音)に分類されます。改訂前の規格では、それぞれの分類に応じた測定方法が規制されていましたが、改正では定常騒音、変動騒音は等価騒音レベルを測定し、間欠騒音、衝撃騒音はその継続時間と単発暴露騒音レベルから計算で等価騒音レベルを求めることになりました( 3 章を参照下さい)。

 

10-4 測定器と校正

測定器は JIS C 1509-1 Class 1 精密騒音計に適合するもの、少なくとも JIS C 1509-1 Class 2 普通騒音計に適合するものを使用する必要があります。機能として、等価騒音レベル、単発騒音暴露レベル、時間率騒音レベルの測定機能を持った機種が便利です。

測定器の校正は一連の測定の前後に現場で校正を行なう必要があり、一般的には音響校正器が使用されます。7 章 3 節「校正について」を参照下さい。

 

10-5 測定点

環境騒音の測定を行なう場合、測定に適した測定点を選ぶ必要があります。測定点は、関連の法規が有ればそれに準じて選定し、測定をします。また測定の目的や内容、測定現場の条件などによって、個々のケース毎に選定または指定すべきですが、一般的な規則として次のように示されています。

(1) 屋外

一般の環境騒音を測定する場合には、建物などからの反射の影響を避けるため、建物などの反射物からなるべく 3.5 m 以上離れ、地上 1.2 m 〜 1.5 m の高さとします。ただし、建物などから 3.5 m 以上離れた位置に測定点を選ぶことが不可能な場合には、 反射物からできるだけ離れた位置で測定を行なうのが望ましいとされています。やむを得ず建物などの近くで測定を行なう場合には測定条件としてその旨を明記しておく必要があります。 従来は「上記のほかに道路交通騒音などを対象として、街頭で騒音を測定する場合には、車道と歩道の区別があるところでは車道寄りの歩道端、区別の無いところでは道路端で、地上より 1.2 m 〜 1.5 m の高さで測定」となっていましたが「騒音に関わる環境基準」、「騒音規制法」では騒音を問題としている地点を重視した測定評価となりました。その他、工場や娯楽場などの特定の騒音源が周囲に及ぼす影響を調べる場合にも、個々の条件または照合すべき法律などの規定によって、適当な測定点を決めるべきですが、常に問題になっている場所で測定するのが原則です。

(2) 建物の周囲における測定

建物に対する外部騒音の影響を調べる場合には、対象となる壁などの反射面の影響を避けるために、建物の外壁などから 1 m 〜 2 m 離れ、建物の問題となる階の床レベルから 1.2 m 〜 1.5 m の高さに測定点を選びます。旧 JIS(JIS Z 8731:1983)によれば、窓の前面における騒音レベルを測定する場合には、窓中心線上で窓から 1 m 離れた点を選ぶこととなっていました。

(3) 建物の内部における測定

建物の内部における騒音レベルを測定する場合は、壁などの反射面から 1 m 以上離れた位置で、また窓などの開口部では 1.5 m 離れた位置で床上 1.2 m 〜 1.5 m の高さに選びます。 この場合、室内の音場は一般に極めて複雑になっているので、一点だけでなく数点の位置で測定し、その平均(算術平均またはパワー平均)を求めることが望まれています。

(4) 作業環境における測定

新 JIS(JIS Z 8731:1999)では削除されました。旧 JIS(JIS Z 8731:1983)や安全衛生法では、「工場や事務所などの作業環境における騒音を測定・評価するときの一般的な測定点としては、作業者が定位置で作業することが多い場合には、原則としてその作業者の耳の位置とする」となっています。作業者の位置が特定できない場合には、通路上など作業者の動線上の代表的ないくつかの位置で、床上 1.2 m 〜 1.5 m の高さを測定点とします。また 6 m 毎のマス目に区切りその交点を測定点とします。詳細は、こちらの「作業環境 Q &A 集」ページを参照下さい。

(5) 気象の影響

騒音は気象条件により変化し、その程度は伝搬距離が長いほど影響を受けます。このような影響が問題になる場合は次のいずれかによって測定します。

(a) 種々の気象条件における測定結果を平均する方法

測定点において種々の気象条件にわたる長期平均等価騒音レベルが得られるよう実測時間を設定する。

(b) 特定の気象条件において測定する方法

 一般に騒音が大きくなる条件、すなわち風の方向が騒音源から測定点方向にふく順風のときに実測時間を設定する。

 

10-6 騒音の測定方法

環境基本法では評価基準値が時間率騒音レベルの中央値 L50 から等価騒音レベルに全面改訂され、また騒音規制法では特定施設では時間率騒音レベル L5 が評価基準値のままですが、自動車騒音では 2000 年 4 月に等価騒音レベルに改訂されました。等価騒音レベル LAeqと時間率騒音レベル L50 の比較を次表に示します。

表 10-1 等価騒音レベル LAeq と時間率騒音レベル L50 の比較

  等価騒音レベル(LAeq 時間率騒音レベル(L50
基本特性
  • 騒音のエネルギー平均値
  • 突発的、間欠的な音に影響される。(時間的、空間的安定性は高くない = 感度が高い)
  • 騒音の変動特性によらず適応でき複合騒音にも適応可能。
  • 騒音レベルの中央値
  • 突発的、間欠的な音に影響されにくい。(時間的、空間的安定性が高い = 感度が低い)
  • 騒音の特性が異なる場合や複合騒音の評価が困難。
  • 異なる騒音に対する測定結果を相互に比較することが困難。
  • 両指標により同時に測定した場合、騒音の変動の度合いにより程度は異なるが、通常 LAeq の方が L50 よりも値が大きくなる場合が多い。
住民反応との関係 間欠的な騒音をはじめ騒音の暴露量が数量的に必ず反映されるため住民反応と比較的よく対応する。 LAeq と比較すれば、間欠的な騒音が数量的に反映されにくいため、住民反応との相関はあまり良くない。
予測 騒音のエネルギーを時間平均したものであるので、予測地点の騒音分布を再現しなくても騒音のエネルギー平均値を予測すれば足りる点で予測計算が簡略化・明確化される。 騒音分布に左右されるので、厳密には予測地点における騒音分布を再現する必要がある点で、予測計算が行いにくい。(ただし、経験式による予測の実績はある。)
測定 騒音レベルの変動に敏感な指標であるため変動が大きい場合には、ある程度の時間をかけて測定しなければ安定したデータが得られない。(信頼性と実用性の両立が課題。) 比較的短時間の測定で安定したデータを得ることができる。
国際的動向 国際的に多くの国や機関で採用されており、国際的データとの比較が容易。 国際的にほとんど使用されていないので、国際的なデータとの比較が困難。

騒音の変動の状態により程度は異なりますが一般的に L50 より等価騒音レベルの方が大きくなりやすいと言われています。関連の規定で定めが無ければ、一般的に次の等価騒音レベルの算出方法を使用します。

レベルレコーダから等間隔にデータを読み取って計算から求めることも可能ですが、現在では騒音計がディジタル化され、等価騒音レベルと時間率騒音レベルを同時に測定できる機能を持ったものが市販されていています。これらの騒音計を使用すれば簡単に等価騒音レベルを測定することができます。

(1) 変動騒音

騒音の変動が大きい場合は、積分形騒音計による LAeq 測定が望ましい。その場合は測定した実時間を必ず記録しておきます。この方法のほかにサンプリングによる方法と騒音レベルの統計分布による方法を用いることができます。

(a) サンプリングによる方法

一定時間 Δ t 毎に時刻 t1 から時刻 t2 までサンプリングしたデータより、次式により等価騒音レベルを求めます。

式10-4

式 10-4

この計算で求める場合は、時間重み特性の時定数に比べサンプリング時間間隔(Δ t )が大きいと精度が落ちます。時定数 Fast のときは 0.25 s 以下、時定数 Slow では 2 s 以下とすることが望まれています。 変動が緩やかで実測時間が数分以上にわたる場合は 5 s 程度まで広げることができます。

(b) 騒音レベルの統計分布による方法

一般に騒音レベルのサンプル値を、分割幅 5 dB に取った統計分布から次式により等価騒音レベルを求めます。

式10-5

式 10-5

(2) 定常騒音

周波数重み特性 A、時定数 Slow を用い、その指示値が 5 dB 以内の場合、定常騒音として扱うことができます。積分型騒音計で等価騒音レベルを求める代わりに、指示値の平均値を読みこの値を採用することができます。

(3) 騒音レベルが段階的に変化する定常騒音

騒音レベルが定常的ではあるが、段階的に変化し、それぞれのレベルが明瞭に区別できる場合は、各段階の騒音レベルを定常騒音として測定し、レベルごとの継続時間を測定しておくことにより次式により等価騒音レベルを計算します。

式10-6

式 10-6

(4) 単発的に発生する騒音

環境騒音の中で単発的に発生する騒音が卓越している場合、時間 T の間に発生する騒音の単発騒音暴露レベルから次式により等価騒音レベルを求めます。

式10-7

式 10-7