11. オクターブ分析(周波数分析)
音響振動の周波数分析手法は、狭帯域分析(FFT 法)とオクターブ分析の2種類あります。
表 11-1 周波数分析の分類 |
分析幅 | 主な用途 | |
---|---|---|
FFT 法 | 定幅分析 | 物理的な原因の究明と対策 |
オクターブ分析 | 定比幅分析 | 騒音や振動の評価 |
オクターブ分析は、CPB(Constant Percentage Bandwidth:定比幅)分析とも呼ばれます。ここではオクターブ分析について説明します。
11-1 オクターブ分析について
騒音対策を行うには、騒音分析=周波数分析が必要です。騒音分析として古くから行われている方法としてオクターブ分析があります。オクターブとは 2 倍の周波数を意味します(下記「オクターブとは」参照)。
耳に感じる周波数特性が等比的なため、オクターブ分析がよく使われています。計測対象とする騒音に対して可聴周波数の周波数範囲において、1/1 オクターブあるいは 1/3 オクターブの規格に定められたバンドパスフィルタを通して各々の帯域毎の音圧レベルを求めます。フィルタの特性などは、JIS C 1514:2002 に規定されていますので、詳しくはそちらをご参照ください。
オクターブとは:

11-2 オクターブフィルタの JIS 規格
オクターブフィルタの JIS 規格には、以下があります。
-
JIS C 1513-1:2020(= IEC 61260-1:2014)オクターブバンドおよび 1/N オクターブバンドフィルタ(分析器)
IEC 規格の翻訳 JIS(IDT)で、フィルタ特性を規定しており、オクターブと 1/3 オクターブだけでなく、より汎用的に 1/N オクターブフィルタまで規定しています。 また、要求する精度の許容差も 2 クラス(1、2)まで、規定しています。 フィルタ形状のみならず、機器としての要求も含んでおります(環境変化による影響やEMC要求等) 本規格では、10のべき乗によるオクターブ周波数比を要求しております。 規格の構成としては、JIS C 1509シリーズのサウンドレベルメーターの構成に近いものが御座います。
下表 11-2 にオクターブと 1/3 オクターブフィルタの中心周波数をリストします。 なお、この中心周波数の数値は、ISO 266 で規定されている公称中心周波数で、厳密な中心周波数は、1. の規格で規定された計算式により求められた値を採用して設計されています。
表 11-2 1/1 オクターブと 1/3 オクターブバンドパスフィルタの中心周波数 |
中心周波数 (Hz) |
1/1 オクターブ |
1/3 オクターブ |
中心周波数 (Hz) |
1/1 オクターブ |
1/3 オクターブ |
中心周波数 (Hz) |
1/1 オクターブ |
1/3 オクターブ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.8 | ○ | 25 | ○ | 800 | ○ | |||
1 | ○ | ○ | 31.5 | ○ | ○ | 1000 | ○ | ○ |
1.25 | ○ | 40 | ○ | 1250 | ○ | |||
1.6 | ○ | 50 | ○ | 1600 | ○ | |||
2 | ○ | ○ | 63 | ○ | ○ | 2000 | ○ | ○ |
2.5 | ○ | 80 | ○ | 2500 | ○ | |||
3.15 | ○ | 100 | ○ | 3150 | ○ | |||
4 | ○ | ○ | 125 | ○ | ○ | 4000 | ○ | ○ |
5 | ○ | 160 | ○ | 5000 | ○ | |||
6.3 | ○ | 200 | ○ | 6300 | ○ | |||
8 | ○ | ○ | 250 | ○ | ○ | 8000 | ○ | ○ |
10 | ○ | 315 | ○ | 10000 | ○ | |||
12.5 | ○ | 400 | ○ | 12500 | ○ | |||
16 | ○ | ○ | 500 | ○ | ○ | 16000 | ○ | ○ |
20 | ○ | 630 | ○ | 20000 | ○ |
11-3 オクターブフィルタのバンド幅と中心周波数
1/1・1/3 オクターブは、ある周波数帯域幅を持った複数のバンドから構成されています。
今、次のように規定すると:
f1:下限遮断周波数
f2:上限遮断周波数
fm:中心周波数
各オクターブバンドに対して、次の関係式が成立します。
● 1/1 オクターブバンドフィルタ
|
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図 11-1 1/1 オクターブバンドにおける中心周波数、上下限周波数とバンド幅 |
● 1/3 オクターブバンドフィルタ
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図 11-2 1/3 オクターブバンドにおける中心周波数、上下限周波数とバンド幅 |
【補足】:中心周波数について
以下、JIS C 1513 より引用した 1/1 と 1/3 オクターブバンドフィルタのフィルタ特性の図を示します。
図 11-3 オクターブバンドフィルタ クラス 1 の相対減衰量の限界値 |
図 11-4 オクターブバンドフィルタ クラス 2 の相対減衰量の限界値 |
図 11-5 1/3 オクターブバンドフィルタ クラス 1 の相対減衰量の限界値 |
図 11-6 1/3 オクターブバンドフィルタ クラス 2 の相対減衰量の限界値界値 |
表11-3 可聴帯域における1/3オクターブバンドの厳密な中心周波数
指数x | 公称中心周波数 (1/3オクターブ)[Hz] |
10のべき乗による厳密な中心周波数 10x/10 X 1000 [Hz] |
2のべき乗による厳密な中心周波数【参考】 (2のべき乗に基づくフィルタ設計はJIS C 1513-1では推奨されておりません。) 2x/3 X 1000 [Hz] |
---|---|---|---|
-16 | 25 | 25.119 | 24.803 |
-15 | 31.5 | 31.623 | 31.250 |
-14 | 40 | 39.811 | 39.373 |
-13 | 50 | 50.119 | 49.606 |
-12 | 63 | 63.096 | 62.500 |
-11 | 80 | 79.433 | 78.745 |
-10 | 100 | 100.00 | 99.213 |
-9 | 125 | 125.89 | 125.00 |
-8 | 160 | 158.49 | 157.49 |
-7 | 200 | 199.53 | 198.43 |
-6 | 250 | 251.19 | 250.00 |
-5 | 315 | 316.23 | 314.98 |
-4 | 400 | 398.11 | 396.85 |
-3 | 500 | 501.19 | 500.00 |
-2 | 630 | 630.96 | 629.96 |
-1 | 800 | 794.33 | 793.70 |
0 | 1000 | 1,000.0 | 1,000 |
1 | 1,250 | 1,258.9 | 1,260 |
2 | 1,600 | 1,584.9 | 1,587 |
3 | 2,000 | 1,995.3 | 2,000 |
4 | 2,500 | 2,511.9 | 2,520 |
5 | 3,150 | 3,162.3 | 3,175 |
6 | 4,000 | 3,981.1 | 4,000 |
7 | 5,000 | 5,011.9 | 5,040 |
8 | 6,300 | 6,309.6 | 6,350 |
9 | 8,000 | 7,943.3 | 8,000 |
10 | 10,000 | 10,000 | 10,079 |
11 | 12,500 | 12,589 | 12,699 |
12 | 16,000 |
15,849 | 16,000 |
13 | 20,000 | 19,953 | 20,159 |
(注意 1) 公称中心周波数は、ISO 266 による。
(注意 2) は、1/1オクターブバンドの公称中心周波数でもある。
【参考】:1/3 オクターブのデータより 1/1 オクターブのデータへの変換
既知の 1/3 オクターブデータの dB 値より対応する 1/1 オクターブバンドデータの dB 値へ変換するには、求めたい 1/1 オクターブバンドに対応する 1/3 オクターブバンドデータの dB 値の和を計算します。 例えば、1/1 オクターブの中心周波数 1000 Hz のバンドデータ値を求める場合、対応する 1/3 オクターブのバンドデータが次のような dB 値であるとき;
800 Hz | 73 dB |
1000 Hz | 77 dB |
1250 Hz | 75 dB |
;中心周波数 1000Hz の 1/1 オクターブバンド値は次の式から求められます。
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式 11-7 |