周波数分析を行うと、周波数バンド毎のレベルが表示されます。このバンド毎の騒音レベル(音圧レベル)の総和をとった合成レベルをオーバオールレベルといい、分析機器では、この値も同時に表示されます。
周波数分析では、A 特性補正をかけたり、かけなかったり(FLAT 特性)と、目的によって使い分けていますが、FLAT 特性の周波数分析値から A 特性補正のオーバオールレベルを算出するには各バンド毎の測定値から表 11-3 の補正値を加味した値(例えば、200 Hz で 55.2 dB の補正後の値は、55.2 - 10.9 = 44.3 dB)から求めることができます。今、周波数バンド毎のバンドレベルを L1、L2、.......、Ln(dB)としたとき、オーバオールレベル L(dB)は、次の式により求めることができます(この計算は、12 章 1 節の dB 加算に相当します)。
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式 11-8 |
なお、この手法は防音対策で防音効果の特性表より対策後の予測等に応用され、よく使われています。
表 11-3 周波数重み A の特性表 |
中心周波数 (Hz) |
補正値 (dB) |
中心周波数 (Hz) |
補正値 (dB) |
中心周波数 (Hz) |
補正値 (dB) |
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12.5 | -63.4 | 160 | -13.4 | 2000 | +1.2 |
16 | -56.7 | 200 | -10.9 | 2500 | +1.3 |
20 | -50.5 | 250 | -8.6 | 3150 | +1.2 |
25 | -44.7 | 315 | -6.6 | 4000 | +1.0 |
31.5 | -39.4 | 400 | -4.8 | 5000 | +0.5 |
40 | -34.6 | 500 | -3.2 | 6300 | -0.1 |
50 | -30.2 | 630 | -1.9 | 8000 | -1.1 |
63 | -26.2 | 800 | -0.8 | 10000 | -2.5 |
80 | -22.5 | 1000 | 0 | 12500 | -4.3 |
100 | -19.1 | 1250 | +0.6 | 16000 | -6.6 |
125 | -16.1 | 1600 | +1.0 | 20000 | -9.3 |
オクターブ分析器によっては、オールパス(ALLPASS)、オーバオール(OVERALL)の表示があります。それぞれの言葉の意味は次のようになります。
一般的には“オールパス”と“オーバオール”は同じ意味として使われている場合が多いですが、弊社小野測器の周波数分析器では下記のように明確に区別しています。
(1) オールパス
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AC 出力(瞬時音圧)信号を周波数分析せずに、直接平均全パワー(実効値)を求めて、レベル化して表示した値です。
(2) オーバオール
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AC 出力(瞬時音圧)信号を 1/1、1/3 オクターブ分析し、その 1/1、1/3 オクターブバンドデータと表 11-3 から、式 11-8 でレベル値を求め、表示した値です。
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下図 11-7 は通常の騒音を Z(FLAT)特性で 1/3 オクターブ分析した結果ですが、オールパス値とオーバオール値がほぼ等しくなっているのが分かります(上側データ)。 下側のデータは上側のデータを表 11-3 と式 11-8 を使って再計算することにより A 特性付オーバオール値を算出した例です。
図 11-7 1/3 オクターブバンド分析におけるオールパス値とオーバオール値との比較 |
(注意)
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オールパスとオーバオールの値に差がでる場合がありますが、それぞれ有効な値ですので、注意してください。過渡的騒音を含まない通常の定常的な騒音データの分析では、両者の値はほぼ等しくなります(違いがでるとしても、0.1 〜 0.2 dB 程度)。周波数帯域で考えるとオールパスの周波数帯域は、入力信号(例えばマイクロホンの周波数特性 20 Hz 〜 20 kHz)全域となり、オーバオールは、求めた周波数バンド分の帯域となりますので注意が必要です。特殊な例として、20 kHz 付近または以上の帯域の騒音レベルが大きいようなケースでは、オールパス値がより大きくなることがあります。さらに、最近の騒音計は、騒音計のブロック図(図 8-1)における実効値回路(図の点線の部分)以降はすべてデジタル演算処理をしています。この図では、記載されていませんが、周波数補正回路を通ったアナログ信号を、騒音計のタイプによって固有なサンプリング周波数 fS(例:64 kHz や 48 kHz)によりデジタル値に A/D 変換する際に、入力信号の最大周波数帯域(サンプリング周波数の 1/2 以内)が制限されます。騒音計のオールパス値はその最大周波数帯域までのパワー値を含みますので、特殊な例として、20 kHz 以上の騒音データが存在する場合は、オールパス値どうしの比較においても、機種によって違いがでる場合があります。
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オクターブ分析が可能な弊社の騒音計では、周波数重みや時間重みの異なる同時に2つのオールパス値を求めることができます。図 11-8 は、2つのオールパス値(ALLPASS1、ALLPASS2)を測定表示した例です。
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図 11-8 2つのオールパス(AP)値表示例 |
【参考】:低騒音レベルの周波数分析について
低騒音機械の騒音レベルや暗騒音レベルなどの周波数分析においては、オールパス値(あるいはオーバオール値)が正の dB 値でも、バンドレベルが負の dB になることがあります。負の値にあると言うことは、規準値(20 μPa)より小さいパワーということであって、騒音パワー自体が負の値ではありません。ちなみに式 11-8 を使って各バンドのパワーを合計すると、オールパス値(あるいはオーバオール値)に等しくなります。図 11-9 は、弊社のマイクロホンの自己ノイズ特性で OA 値は約 11 dB ですが、各バンド値は 0 dB 付近かそれ以下の負の dB 値となっています。
図 11-9 マイクロホンの自己ノイズ特性(A 特性) |
1957 年にアメリカのベラネック(Beranek, L.L.)によって提案された評価量で、空調騒音などの広帯域のスペクトルを持つ定常騒音を対象として、事務室内騒音の大規模な実態調査と、そこで働く職員へのアンケート調査を基にまとめられました。
対象とする騒音について、騒音のオクターブバンド毎の音圧レベルを図 11-10 に示した NC 曲線にプロットし、全てのバンドである基準曲線を下回るとき、その曲線の数値を評価量(NC 数)とします。
図 11-10 NC 曲線 |
下図 11-11 に弊社騒音計を使用しての 1/1 オクターブ分析値と NC 値の測定例を示します。なお、この測定の際、周波数特性は Z(FLAT)を使用します。