4. いろいろな分野でのデシベル

ここでは、いろいろな分野で、デシベルがどのように使われているかを具体的に述べます。

 

4-1 電気・通信系

伝達系のゲインや減衰量などは、相対レベル値のデシベルが多用されています。通常電圧計測の方が簡単なので、増幅器やフィルタなどの伝達特性では電圧比をとってデシベルを計算します。

例えば、ある回路の入力に 1 mV の信号を入れると、その出力には 10 V の電圧が発生したとします。この場合では、1 万倍の電圧増幅率なので、(3-4)式を使って「ゲイン(利得)は 80 dB」となります。

以下に電気・通信系でよく使われるデシベルについて紹介します。

 

(1) dBm

電力増幅の分野では、dBm をよく使います。この単位は、電力の絶対レベル値で 1 mW の値を 0 dBm と定義します。 例えば、10 W は何 dBm か? 10 W は、104 mW なので、40 dBm (= 10 log (10 4) )となります。同じように 0.1 mW は、何 dBm か? 0.1 mW は、10-1 mW なので、−10 dBm となります。dBm は、元々は電力の単位ですが、伝送系では、インピーダンスを固定することにより、電圧の絶対レベル値としても使われています。
今、インピーダンス系が Z(Ω)の場合において、0 dBm(1 mW)の電圧値を V とすると;

式(4-1)

の関係となります。(4-1)式から種々のインピーダンス値における 0 dBm に対する電圧値をまとめたものが表 6 です。

表6 0 dBm に対する電圧値

インピーダンス Z(Ω) 電圧値(V) よく使う分野
50 0.224 無線系
75 0.274 ビデオ系
600 0.775 電話音響系

 

○ 電圧値 V とデシベル値 X(dBm)との相互関係式

式(4-2)
式(4-3)

 

(例1)50 Ω の時、0.5 V は、7.0 dBm
(例2) 75 Ω の時、1 V は、11.2 dBm
(例3) 600 Ω の時、6 dBm は、1.55 V

 

(2) dBV、dBμ

これらは電圧の絶対レベル値で、dBV は 1 V を 0 dBV として、dBμは 1 μV を 0 dBμ と定義します。

【注意】

レベル化する電圧値(真数)は、基本的に全て信号の実効値としています。

dBV は、FFT アナライザなど低周波帯域の計測器などによく使われています。 FFT アナライザでは、入力の単位は初期設定では電圧(V)なので物理量校正しない場合は、パワースペクトルの縦軸単位は、[dBV]表記です。また、入力電圧レンジも通常は 10 dBV ステップとなっています。例えば、DS-3000 シリーズデータステーションの入力レンジは 1 Vrms の電圧を 0 dBV としています(表 7 参照)。

表7 DS-3000シリーズの入力レンジ表
dBV Vrms V(ピーク)
20 10 ±14.14
10 3.162 ±4.471
0 1 ±1.414
−10 0.3162 ±0.4471
−20 0.1 ±0.1414
−30 31.62 m ±44.71 m
−40 10 m ±14.14 m

 

○ 電圧値 Vとデシベル値 X(dBV)との相互関係式

式(4-4)
式(4-5)

dBμ は、無線通信などでよく使う単位で、1 μV の電圧値を基準としたもので本来は dBμV と表記すべきですが、V は省略されることが多いようです。

 

(3) dBμV/m

EMC などの放射エミッション値を表現する電界強度値を表すのに使われます。これは、1 μV/m を 0 dB と定義します。

 

(4) dBc

高周波や OP アンプなどのスペクトル特性を評価するとき、基本波(キャリア、Carrier の“c”)を基準とした高調波やノイズ成分の相対レベル値です。例えば、基本波が 10 dBm である高調波が −40 dBm の時は、その高調波は −50 dBc となります。この関係は、スペクトルの縦軸が dBV であっても同様です。OP アンプなど低歪みを評価するパラメータに使用されています。

 

(5) dBV/√Hz

アンプの自己ノイズ特性を測定する場合は、パワースペクトル密度(PSD)で評価しますが、この縦軸は単位周波数(1 Hz)当たりの実効値となりますので、その単位は V2/Hz あるいは V/√Hz です。この値をデシベル化したものが、dBV/√Hz です。

 

4-2 音響系

音の強さ(大きさ)を定量化するためにも、デシベル(dB)はよく使われています。その主な理由は、我々人間が感じることの出来る音の強さ(大きさ)の範囲は非常に広いということと、その感じ方が対数的である(3.4 節の(3)参照)ことです。音量の定量化はデシベル(dB)の絶対レベル値表現がよく用いられます。

 

(1) 音圧レベル[Lp

空気中を伝わる音とは、大気圧(静圧)を中心とした微小な圧力変動(波)で、その変動成分の実効値を音圧と呼びます、音圧の単位は Pa(パスカル)です。上記で述べたように通常人間が聞こえる音圧は、20 μPa 〜 20 Pa までの 106 もの広い範囲の数値となります。

音圧レベルは、以下の式で定義されます。

式(4-6)

 

【注意】

  1. 音圧レベルは音の物理的な音の強さ(大きさ)ですが、騒音測定分野では、 人間の聴覚特性を元に決められた周波数重み[A]を加えたレベルを用いることが多く、これを特に A 特性音圧レベル(俗に騒音レベル)と呼び、以下の式で定義されます。

式(4-7)

(4-6)式や(4-7)式において、音圧(瞬時音圧の実効値)を具体的にどのように求めるかが問題になります。通常、瞬時音圧波形から実効値を求める方法は、平均方法によって下記の方式がよく使われます。

指数化平均
瞬時音圧の 2 乗値をある時間重み τ で指数化平均して、その時刻(瞬時)での実効値を求める方法で、これから求めるデシベル値も時間の関数となります。いわゆる瞬時の音圧レベルはこれに当たり、騒音計では通常 1 秒毎に表示しています。騒音計(サウンドレベルメータ)の JIS 規格(JISC1509)では、時間重み付きサウンドレベルと呼ばれています。音響測定の分野では、時間重み τ(時定数)は、Fast(0.125 s)と Slow(1 s)がよく使われています。

リニア平均
瞬時音圧の 2 乗値をある測定時間 T で(等重みで)積分後平均して実効値を求める方法で、これから求めるデシベル値はその測定時間での代表値(1つの値)となります。騒音計(サウンドレベルメータ)の JIS 規格(JIS C1509)では、時間平均サウンドレベル(等価サウンドレベル)と呼ばれています。周波数重みを[A]とすると、環境騒音分野での「等価騒音レベル」となります。
詳しくは、小野測器ホームページ「騒音計とは」の“ 9 章 騒音計の指示値”を参照下さい。

 

(2) 音の強さ(サウンドインテンシティ)レベル[LI

空気等の媒質中を伝わる音波の単位面積を単位時間に通過するエネルギーを音の強さと呼び、単位は [W/m2]です。

音の強さのレベルは、以下の式で定義されます。

 

式(4-8)

 

音波が平面波と見なせる場合は、音の強さ I と音圧 p との関係は;

 

式(音の強さIと音圧pとの関係)

 

となりますから、音の強さのレベル L1 は、音圧レベル Lp にほぼ等しくなります。音の強さと音圧との対応関係は、小野測器ホームページ「騒音計とは」の“ 5-1 音圧レベル(sound pressure level)”の図 5.1 を参照下さい。

 

(3) 音響パワーレベル[LW

媒質中を伝搬する音波は、エネルギーの流れであると考えることができ、このエネルギーを音響エネルギーといいます。そこで、この音響エネルギーの大きさを表す量として、ある指定された面を単位時間に通過する音響エネルギーを考え、これを”音響パワー”[P(W)]と呼びます。

音響パワーレベルは以下の式で定義されます。

 

式(4-9)

 

音響パワーは、主として音源から放射される音響エネルギーの大きさを表すために用いられ、ある指定された周波数帯域内において、単位時間に音源が放射する全音響エネルギーを“音響出力(音源の音響パワー)”[P(W)]といい、その音響パワーレベルを“音響出力レベル(音源の音響パワーレベル)”[LW](dB)といいます。

 

(4) 音響エネルギーレベル[LJ

持続的に発生する音の場合は上記の音響パワーレベルが使われますが、単発的または過渡的な音ではエネルギーで評価する必要があります。

音響エネルギーレベル[LJ]は以下の式で定義されます。

 

式(4-10)

【注意】

エネルギーは、パワーを積分したものです。単位としては、(パワー) X (時間)の次元をもちます。逆に、パワーは単位時間当たりのエネルギーに相当します。 例えば、電気の分野では、電力がパワーで単位は KW、電力量がエネルギーで単位 kWh です。

 

4-3 振動系

音響系と同じように、振動系特に人体振動の分野では、絶対デシベル値がよく用いられています。

 

(1) 振動加速度レベル[LVa

振動の計測量としては、通常加速度信号がよく用いられます。実際の振動は、正弦波のような単純な波形でなく、いろいろな周波数成分を含んだ複雑な信号となりますので、その大きさとしてはエネルギーやパワーと対応がよい実効値が使われています。

振動加速度レベル[LVa]は以下の式で定義されます。

 

式(4-11)

 

基準加速度値は、JIS では 10-5 m/s2 ですが、ISO では 10-6 m/s2 を基準としています。すなわち、振動加速度レベルは 20 dB の違いがあります。

 

[例]

地震分野での実用単位に Gal(ガル)がありますが、1 Gal は 1 cm/s2 ですので、1 Gal は JIS では 60 dB 、ISO では 80 dB に相当します。

 

 

(2) 振動レベル[LV

振動レベルとは、人間の振動感覚補正を行った振動加速度の実効値をレベル化したものです。振動が人体に与える影響は振幅と周波数に依存し、また鉛直方向と水平方向では感じ方が異なります。鉛直方向の振動では 4 〜 8 Hz の周波数の振動が,水平方向では 1 〜 2 Hz の振動が最も感じやすくなっており、“振動感覚特性の総合周波数レスポンス”として JIS C 1510-1995 に規定されています。
詳細は、小野測器ホームページ「振動レベル計 FAQ 」を参照下さい。

振動レベル[LV]は以下の式で定義されます。

 

式(4-12)

 

振動レベルは、音響系における A 特性音圧レベル(騒音レベル)と同じような意味合いのデシベル値です。

【注意】

音響系と同じように、実効値を求める方法は、平均方法により以下の方式があります。

  • 指数化平均
    瞬時振動波形の 2 乗値をある時間重み τ で指数化平均してその時刻(瞬時)での実効値を求める方法で、これから求めるデシベル値も時間の関数となります。いわゆる瞬時の振動(加速度)レベルはこれに当たり、振動レベル計では通常 1 秒毎に表示しています。振動レベル計の JIS 規格(JIS C 1510-1995)では、時間重み τ (時定数、動特性)は、0.63 s となっています。

  • リニア平均
    瞬時振動波形の 2 乗値をある測定時間 T で(等重みで)積分後、平均して実効値を求める方法で、これから求めるデシベル値はその測定時間での代表値(1つの値)となります。この値は、音響系と同じような意味で、等価振動レベル LVeq と呼ばれます。