1. ワイヤボンダーの超音波機構部
ワイヤボンダに使用される超音波機構部は、振動源となるボルト締めランジュバン型 振動子と振動振幅を増大させる金属ホーン、圧着子であるツール(あるいはキャピラリ) から構成され、印加する振動周波数としては、一般的に 60 kHz 前後から最近では 100 kHz 以上のものもあります。
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振動子は、特定の周波数で大きな振動を発生する特性(共振周波数)がありますが、条件次第で周波数が変化することがあるため、振動子を駆動する発振器にフィードバック回路を設けて周波数制御をおこなっています。また、金属ホーンを伝搬した振動は増幅されることで、 ツール先端の振幅は無負荷時で数 μm 程度となります。 安定したボンディングを行うためには、ツール先端での振動振幅を安定させる必要がありま す。このため、ツール先端の振動をダイレクトに測定するニーズが年々増大してきています。
2. ワイヤボンディングとボンディングパラメータ
ワイヤボンディングのサイクルをボールボンダを例にすると以下のようになります。
キャピラリの先端に形成されたワイヤ端のボールはキャピラリの下降に伴いチップ上に形成されたパッドと言うチップ上の接合面に押しつけられ接合します。次にキャピラリはワイヤを繰り出しながらリード上に移動し同様に接合します。その後キャピラリは上昇し、その際クランプが閉じることでワイヤーがカットされます。カットされたワイヤ端にトーチより高圧放電されることでワイヤ端が溶融し再度ボールが形成されます。 この時の IC パッドへのボンディングを第1ボンド、リードへのボンディングを第2ボンドといいます。 ワイヤボンディングの際のボンディングパラメータには以下のものがあり、第1・第2 個別に設定できるようになっています。
1. | 2. | 3. |
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4. | 5. | 6. |
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ヒータ加熱温度(ボールボンダのみ)
ワイヤ融着がしやすくなるよう、パッドとリードを 200℃ 前後で加熱します。
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荷重
キャピラリをパッド・リードに押しつける際の押圧荷重です。超音波ホーン側から約 10 〜 100 g 程度の荷重を負荷することによって行います。
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超音波(Ultra Sonic)発振
ワイヤの塑性変形を補助し、パッド表面・リード表面との融着を促します。
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ボンディング時間
荷重と超音波を加える時間であり、数十msec 〜 数百msec で可変できます。 これらボンディングパラメータのうち、半導体材料の多様化に伴い①の加熱温度の低温 下が要求されたり、製造速度(1サイクルあたりのタクトタイム)向上から④のボンディング時間の短縮化が求められてきています。 このため、各々①④のパラメータが担っていた作用を他のパラメータで補完せざるを得ないケースも発生してきています。
このような場合、以下のような対策がとられています。
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USパワーの増加または発振周波数の高周波化
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荷重の増加
しかしながら、ボンディングの良し悪し(ボンダビリティ)は各ボンディングパラメータの微妙なバランスの上で成立していることから、不用意なパラメータ変更は製品歩留まりに対して多大な影響を与えます。具体的には、ワイヤの剥離やネック切れにともなう断線事故あるいは荷重かけ過ぎによるチップ側の接触パッド欠損等の破壊事故が増大することがあります。
3. ボンディングパラメータ解析の問題
従来、最適ボンディングパラメータの割出しや事故原因の監視ならびに究明には以下のような手法が使用されてきましたが、近年の状況変化に伴い各種の問題が発生してきています。
1. 経験則 | |
利点 | 短期かつ比較的低コストで対応できる。 |
欠点 | 理論的・数値的裏付けがないため、IC の新品種にそのまま対応できると限らない。 また、トラブル発生時の問題点が不明なため、対策は限定され 歩留まりが一旦悪化するときりがなくなる。 |
2. ピックゲージによる引っ張り強度試験 | |
利点 | ワイヤそのものの引っ張り強度・接合強度をみるため、簡便に検査できる。 |
欠点 | 結果の確認であり原因究明とはならない。また破壊検査となる。 |
3. 高速度カメラによる撮影 | |
利点 | 断線事故や剥離状況の確認等に有効 |
欠点 | 結果の確認には有効であるが原因究明にはきわめて限定的となる。特に、US 発振の ような高い周波数に起因する問題に対しては対処できない。 |
4. ランジュバン振動子のインピーダンス変化の測定 | |
利点 | 各ボンダに設置することで、インライン常時監視とすることが可能 |
欠点 | 変化率が小さく、原因の明白な大きな事故でもないかぎり差異がわからず、導入効 果もほとんどない。 |
4. レーザードップラ振動計による測定の有効性
ボンディングの工程は、前述したように金属ホーンの先端にネジ止めにて取り付けられているツールあるいはキャピラリと呼ばれる接続用圧着子とワイヤを挟んでパッドやリードフレームとの間で行われます。よって、ボンダビリティを検証するための測定ポイントとしては、作用点そのものであるツール先端あるいはパッドやリードフレームを直接測定できれば有効であることは容易に想像できます。 しかしながら、ツールやパッドあるいはリードフレームの測定を行うことは従来非常な困難を伴い、端的にいえば適用可能なセンサーが無かったというのが実情でした。 例えばボールボンダで使用されるツールは、キャピラリと呼ばれる先端がテーパ状で細かい 直径約 1.5 mm、長さ約 11 mm 中空の針であり、概して硬質セラミックまたはルビーで製作さ れています。このため、サイズ的な制約から接触式の振動センサー等を取り付けることは不可能です。 また、非接触センサーの代表ともいえる三角測量方式のレーザー変位計では、60 kHz 以上という高い周波数まで測定できるものは希れであり、三角測量の原理上センサーとターゲット間の測定距離と分解能がトレードオフの関係となるため測定不能となります。このため、現在レー ザドップラ方式による振動計の適用が主流となっており、良好な結果が得られています。 以下にレーザードップラ方式による測定の長所・短所について述べてみます。
長所 | 分解能が測定距離に依存しないため高分解能で数値化がしやすく、ボンディング作用点の近傍での測定となるため測定データの変化率も大きいため差異が出やすい。とくに振動子や金属ホーンに問題があった場合のトラブルでは、初期データがあれば比較的簡単に判別 可能となる。 |
短所 | 製造する IC の種類や使用するボンダおよびワイヤによって特性が異なるため、業界標準となるような基準を作成することはできず、個別対応となる。 このため基準作成のための時間を要し、即効性はあまりない。 また、常時監視を行うことは不可能であり、測定に多少の慣れを必要とする。 |
レーザードップラ振動計による測定でも問題点は存在することから、ボンダビリティの検査方法として「万能」とはいえませんが、他の測定方法を使用した場合、概して「原因 不明」あるいは「効果なし」という議論の余地の無い状況下では、「現在適用しうる最善の測定方法」となります。
例えば、ツールは消耗品として交換する必要がありますが、通常、ツールの交換は手作業で行われています。ホーンに対するツールの取付位置や固定ネジの締め付けトルク次 第では、ボンディングの状態が変化することがありますので、メンテナンスで評価する際などにおいてもツール先端の振動振幅の定量化は重要です。
さらに、押さえ板等搬送機構上での固定にゆるみがあったりすると、ボンディング中に リードフレームが動くことにより不具合の原因となることがあります。これらの測定にはレーザードップラ振動計をセンサーとした測定システムが最適となります。