3.4 レーザードップラ振動計(LV シリーズ) -速度センサー-

レーザードップラ振動計は、レーザー光を照射する光学ヘッド部と反射光からのドップラ周波数を処理する変換部から構成されます。

変換部からの信号は、対象物体の移動速度に比例した電圧信号となり、この信号を FFT アナライザー等に入力することによって加速度・変位に変換することができ、またその信号を周波数分析することによって対象物体の挙動を解析することが可能です。

<原理>

ある一定の周波数成分を持つ音波や電波あるいは光波を、ある速度で移動している物体に当てると、移動物体の持つ速度成分に比例して周波数が変化します。これをドップラシフトあるいはドップラ効果と呼びます。この時、放射した周波数と反射して戻ってきた周波数の間には次の関係が成り立ちます。

(1) 物体が近づいてくる場合  → 放射周波数 < 反射周波数
  物体が遠ざかる場合      → 放射周波数 > 反射周波数
   
(2) 放射周波数と反射周波数の差は、物体の移動速度に関係し、一般に速度の上昇に伴い周波数の差が大きくなる。

レーザードップラ振動計はこの原理を使用しています。レーザー光を移動するターゲットに照射すると、ターゲットからの反射光の持つ周波数はドップラ効果によって照射光が本来持つ周波数からドップラシフトします。この時のドップラシフト量についてみると、シフトした周波数を fD、ターゲットの持つ速度を V、照射光の波長を λ、照射光を当てる方向とターゲットの移動方向とのなす角度を θ とすると、次の式が成立します。

イラスト(レーザードップラ振動計の原理)

ここで、レーザーの照射光の周波数を f0 とすると、反射光の持つ周波数は f0 + fD となります。レーザードップラ振動計で使用されるレーザー光の波長 λ はきわめて安定しているため、ドップラ周波数 fD とターゲットの移動速度 V は比例関係にあります。また、レーザードップラ振動計ではレーザーを照射する方向とターゲットの移動方向とのなす角度 θ は通常 0 度と設定するため(入射光に対する反射光の平行成分のみを検出:面外振動*)、ドップラ周波数 fD を測定することでターゲットの持つ照射方向の移動速度を求めることが出来ます。ただし、レーザー光そのものの周波数は極めて高く、直接測定することが困難なため、通常ドップラ周波数 fD の検出は、照射光(f0)と反射光(f0 + fD)とを干渉させて検出します。

 

<種類>

レーザードップラ振動計はその構造上次のように分類できます。なお、右側に対応する当社モデルを掲げております。

種類 対応当社モデル
面外振動 参照光型 LV-1710、LV-1720A
3次元振動 LV-3300

 

イラスト(面内振動と面外振動の概念図)

 

次にそれぞれのタイプについて少し詳しく見て行きます。

 

3.4.1 参照光型

もっとも基本的なレーザードップラ振動計です。対応する当社モデル LV-1710 および LV-1720A の構成図を下に示します。

 

イラスト(レーザードップラ振動計の構造)

 

光源から照射されたレーザービームはビームスプリッタを介して2系統に分割され、一方は非測定物に当てられる入射ビーム、もう一方は機器内部で戻される参照ビームとなります。ターゲットより返ってくる反射ビームは非測定物の持つ振動速度に応じてドップラシフトを起こしており、AOM 音響光学変調器であらかじめ周波数シフトを与えられた参照ビームと干渉させるとビート周波数が得られます。このビート信号は検出回路でドップラシフトした周波数成分だけ取り出され、FM 復調回路で振動速度に応じた電圧信号として出力されます。

 

3.4.2 3次元振動計

物体の振動は、常に一方向とは限らず、3次元的に複雑な動きをしています。近年とみに製品が小型化・高精度化するに伴い、こうした3次元的な複雑な動きを計測・解析する必要性が高まりつつあります。LV-3300 は、参照光型レーザードップラ振動計 3 台を使用し、各々から得られる信号をベクトル演算することで対象物体の X・Y・Z の振動速度並びに振動方向を同時に測定します。 LV-3300 の光学ヘッド部の構成およびベクトル演算式を下に示します。

 

LV-1710/1720光学ヘッド ×3

イラスト(3次元振動計の概念図)

イラスト(3次元振動計の動作原理)

 

 

3台の光学ヘッドの内の1台は入射ビームとターゲットの移動方向(Z 方向)とのなす角度を一致させていますが、他の2台は各々ある角度(ZX、ZY)を持たせて設置されています。この角度を持たせた2台から得られた信号は各々 ZX 方向と ZY 方向の振動速度および振動方向となります。従って、この計3台の光学ヘッドからの反射ビームはターゲットの Z 方向、ZX 方向、ZY 方向の振動成分を持つことになり、この3つの信号をベクトル演算機に入力することで X・Y・Z 3方向各々の振動を同時に測定できます。

 

 

<レーザードップラ振動計の優位点と注意点>

優位点
  • 非接触測定
  • 測定ダイナミックレンジが広い
  • 空間分解能が高い
  • センサーヘッドが小型
注意点
  • センサーヘッドをターゲットに正対させる必要がある
  • レーザービームの反射光量を確保
  • ターゲット上の油・水の影響を受ける
  • 回転体の計測には注意が必要 (表面粗さによるノイズの影響)

<レーザードップラ振動計使用上の計測ポイント>

  • 非接触測定のため被測定物に影響を与えません。また、センサーヘッドとターゲット間は相応に離すことが可能なため(LV-1710/1720 で、標準 100 mm 〜 5 m)、ターゲットが高温を発するものであってもセンサーヘッドに影響を与えず測定することが可能です。

  • LV-1710 の場合、速度測定範囲 0.3 μm/s 〜 10 m/s 測定周波数範囲 1 Hz 〜 3 MHz (20 MHz まで拡張可)のダイナミックレンジを持っています。これは高周波領域で変位換算すると 0.01 nm (0.00001 μm)迄測定可能となります。

  • ターゲット上のレーザーのスポット径サイズは数十 μm 〜 数百 μm(LV-1710/1720 では、20 μm 〜 400 μm)と非常に小さいため、微細なターゲットの振動測定も可能です。さらに、専用の顕微鏡に組み込めばより小さなターゲットのスポット振動の計測も可能です。

  • 測定対象表面に油・水等が流れている状態での測定はできません。また、測定対象に油・水が付着している場合にも誤差の原因となるためできるだけそれらを除去することが必要です。これは、油・水表面で不必要なレーザー反射が起こるためで、測定対象自体の振動量を正確に捉える妨げになるばかりか、乱反射により測定不能となる場合があります。

  • 回転体等レーザービームに対して横方向に移動或いは振動する成分を顕著に持つ測定対象では、測定対象の表面粗さと形状によって反射光が瞬間的に欠落することで出力信号にひげ状のノイズが発生し測定誤差として現れる場合があります。

 

Revised: 2004/4/19