6.シャープネス計算の考え方

シャープネスは、高い音と低い音のバランスによって決まります。シャープネスの計算は、ラウドネスのデータをもとにして行われます。

1. ラウドネスのスペクトルを描く

2. スペクトルの面積の重心を求める

3. 周波数軸上の右側(高音側)にいくほど Sharpness が高くなる

まずはラウドネスを計算します。計算したラウドネスのスペクトルを描きます。

データ画面(低い音のオクターブデータ)

データ画面(高い音のオクターブデータ)

音 A は低い音、音 B は甲高い音です。純音であれば、周波数を比較することでどちらがどの程度高いかを数値で比較できますが、広い範囲に周波数成分が存在するため、簡単には比較できません。 そこで、シャープネスを計算してどちらが甲高いかを表します。

はじめに、ラウドネススペクトルの面積(図の赤色の曲線の下側の面積です)の重心を求めます。 次に、重心から下側に向かって垂線を下ろし、周波数の原点( 0 Hz、0 Bark)から垂線を下ろした点までの距離を求めます。この距離が長いほどシャープネスは大きくなります。

  

データ画面(低い音のラウドネスデータから重心を求める)

データ画面(高い音のラウドネスデータから重心を求める)

シャープネス計算では、基本的には、各データ下側の赤い矢印()の長さを求めています。 しかし、これだけでは、聴感とあまり合いません。 これを補正するために、重み係数を使用します。 臨界帯域 (critical band) ごとのラウドネス(ラウドネス密度)に対し、臨界帯域番号(critical band rate)に比例した重み付けをし、さらに下図のような重み係数をかけ、その後にラウドネススペクトルの重心を求めます。

  

データ(臨界帯域ごとの重み係数)

  

6-1 シャープネスの基準

シャープネスの基準となる音は、1 kHz を中心とした狭帯域雑音で、帯域幅が 1 Bark の音圧レベル 60 dB です。この時、シャープネスは 1 acum となります。

  

7.変動強度計算の考え方

人間は、音の大きさが変動する場合(大きい小さいを繰り返す)と、周波数が変動する場合(高い低いを 繰り返す)に変動感を感じます。この変動の周期が非常にゆっくりの場合には変動感(ふらつき感)をあまり感じず、変動の周期が、ある程度速くなると変動感を強く感じます。 一番変動感を強く感じるのは、一秒間に4回の速さで変動をする場合(変調周波数が 4 Hz)と言われます。さらに変動の周期が速くなると、変動感は次第に小さくなっていきます。

変動強度の計算では、ラウドネスの時間履歴にどれだけ変動成分が含まれているかを調べています。ラウドネスが変調周波数 4 Hz に近い場合に、変動強度が大きくなります。

  

データ(3つの変調音の変動強度データ)

  

7-1 変動強度の基準

変動強度の基準となる音は、1 kHz の純音を変調周波数 4 Hz で 100 % AM 変調し、音圧レベルを 60 dB とした音です。この時、変動強度は 1 vacil となります。

  

8.ラフネス計算の考え方

ラフネスの場合も、音の大きさや周波数が変調している場合に感じます。 ただし、その変調周波数はもっと高く、一秒間に70 回ほど(変調周波数が 70 Hz)の速さで変調をする場合に最も「粗い」と感じます。音を「粗い」と感じるとき、人間の聴覚では、その音の変調を聞き取っています。 しかし、変動している音の一つ一つを分離して聞き取ることができないため、変動感ではなく粗さ感として感じます。

  

データ(変調周波数とラフネスの関係)

  

ラフネスの計算では、ラウドネスの時間履歴にどれだけ変動成分が含まれているかを調べています。ラウドネスが変調周波数 70 Hz に近い場合に、ラフネスが最も大きくなります。

  

8-1 ラフネスの基準

ラフネスの基準となる音は、1 kHz の純音を変調周波数 70 Hz で 100 % AM 変調し、音圧レベルを 60 dB とした音です。この時、ラフネスは 1 asper となります。

  

9.変動感とざらざら感

同じ変調音でも、変調の周波数が異なると、聞いた印象も異なり、変動感を感じたり、ざらざらと聞こえたりします。

変調周波数 1 Hz

データ(変調周波数1Hzの音圧波形)

山と谷を聞き分けられる
⇒ 変動感を感じる

データ(変調周波数1Hzのラウドネスの時間軸波形)

変調周波数 4 Hz

データ(変調周波数4 Hzの音圧波形)

山谷を聞き分けられるが谷がだいぶ埋まった
⇒ 変動感を感じる (変動強度最大)

データ(変調周波数4 Hzのラウドネスの時間軸波形)

変調周波数 70 Hz

データ(変調周波数70Hzの音圧波形)

変動があることはわかるが山谷を聞き分けられない
⇒ ざらざら感(ラフネス最大)

データ(変調周波数70Hzのラウドネスの時間軸波形)

変調周波数 200 Hz

データ(変調周波数200Hzの音圧波形)

変動があることも分からない = 平坦になる
 ⇒ 滑らかに聞こえる

データ(変調周波数200Hzのラウドネスの時間軸波形)

上図は、1kHz の純音を 100 % 振幅変調した音の音圧波形とラウドネスの時間軸波形です。 変調の周期がゆっくりの場合(変調周波数 1 Hz)、音の大きさの山谷を聞き分けることができます。 変調周波数 4 Hz になると、山谷を聞き分けることは出来ますが、テンポラルマスキングの影響で、谷が埋まってきます。 変調周波数 70 Hz になると、谷部分はかなり埋まり、山谷は聞き分けられませんが、音のなかに変動の成分があることが分かります。 この状態が、「粗い」と感じている状態です。さらに変調周波数が高くなり 200 Hz となると、谷部分は完全に埋まり、ラウドネスの時間波形は平らになります。聴感的にも滑らかに聞こえ、ざらざら感はなくなります。