1. 音とは
音(音波)は、媒質(空気中では空気)を伝わる波の一種で、媒質を構成する非常に小さな粒子(体積粒子)が波の進行方向と同じ方向に振動する縦波(粗密波)であり、体積粒子の密な部分では圧力が大気圧より高く、粗な部分では低くなります。この大気圧からの圧力の変化分を“音圧”( p )と呼び、普通は音圧の 2 乗平均の平方根(実効値 rms )で表示します。なお、単位としては、パスカル( Pa )やニュートン毎平方メートル( N/m2 )が使用されます。
人間が感じることができる音(可聴音)の周波数帯域はおおよそ 20 Hz から 20 kHz であり、音圧の範囲は 20 μPa か 20 Pa で、もっとも小さな音ともっとも大きな音との音圧の比は 106 にもおよびます。なお、騒音は音の一種であり、人間にとって不快な音を特別に騒音と呼んでいます。
人間は、次のような音の物理的な特徴から音の違いを聞き分け、判断していると考えられています。
<音の高さ>
私たちが高い音、低い音といっているもので、主に音の周波数の違いに起因します。
同じ「ア」の音声でも高い声の「ア」と低い声の「ア」がありますが、これは「ア」としての音の波の形は同じ様でもピッチ周波数が異なるためで、
ピッチ周波数が高い音は高く、ピッチ周波数の低い音は低く聞こえます。

<音の大きさ>
同じ音の高さの「ア」という声でも、大きな声の「ア」と小さな声の「ア」がありますが、これは「ア」としての音の波形は同じ様でも
、大きな声の「ア」は振幅が大きく、小さな声の「ア」は振幅が小さいことに主に因ります。

<音色・音質>
私たちは、同じ音の大きさ、同じ音の高さでひかれている楽器でも、その種類を聞き分けることができます。
これは、楽器からでてくる音の音色や音質を聞き分けているからです。
音色や音質は、現在でも十分には解明されていませんが、音の波形が微妙に異なることに因ると考えられています。

図1 音の性質
また、音は波としての性質を持っていることから、「反射」、「透過」、「回折」といった性質を持ち、距離によって減衰します。以下に図示しましたので参考としてください。
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図1 音の性質 |
2.音の計測単位
通常音を計測する場合、音の周波数特性とその大きさが対象となります。周波数はご存じのようにその計測単位として“ Hz ”が使用されます。音の大きさは、変化の範囲が非常に広いことから対数尺度が使用されます。また、“人間の感覚量は刺激量の対数に比例する"というウェーバ・フェヒナーの法則があり、聴覚も感覚量の一つであることから対数尺度が用いられています。対数尺度の単位としては、アメリカのグラハムベル( Alexander Graham Bell )が電話における電力の電送損失を表すのに最初に用いたことから、ベル( B )が使用されています。なお、ベル( B )では値が大きすぎるため、その 10 分の 1 であるデシベル( dB )が実際には使われています。また、音を扱う世界では、デシベル値を表す言葉として「レベル」を使用します。「音の大きさ」をデシベル値にしたときは、「音の大きさのレベルは」「何 dB 」のように表現します。
今、ある音の音圧の実効値を p( Pa )、基準となる音圧の実効値を p0(Pa)としたとき、音圧レベル Lp( dB )は次の式で与えられます。
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基準音圧 p0 は、空気中の音の場合 20 μPa であり、正常の聴覚を有する人間の 1 kHz の純音に対する最小可聴値に近い値です。
次の図は音圧 p( Pa )と音圧レベル Lp( dB )との関係を示したもので、音圧 20 μPa は音圧レベル 0 dB、1 Pa は 94 dB、20 Pa は 120 dB に相当します。なお、可聴音ではありませんが、圧力の変動が 0.1 気圧(約 10000 Pa )あったとすると、音圧レベルでは 174 dB となります。
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図2 騒音の種類とその大きさ |
3.音センサー
音の検出を行うセンサーを一般にマイクロホンと呼びます。マイクロホンは、その変換方式の違いにより動電型、静電型、圧電型に分類されます。動電型(ダイナミックマイク)は主に音楽の世界で依然根強い需要があり、圧電型マイクは、主に低周波騒音計用のマイクとして使用されています。計測用としては、小形にできることや、広い周波数帯域に渡ってフラットな周波数特性を持ち、ほかの形式に比べ安定性がきわめて高いことから静電型(コンデンサ)マイクが一般に使用されています。
静電型の構造を下に図示します。
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図3 静電型マイクロホンの構造 |
なお、静電型マイクにも、バイアス型とバックエレクトレット型の2種類があり、その違いは外部から直流電圧を加えているか、電圧を加える代わりに永久電気分極した高分子フィルムを使用するかです。
4.マイクロホンの選択
マイクロホンの選択に当たっては次の点に考慮する必要があります。
4.1 サイズ
マイクロホンの公称口径です。1 インチ、1/2 インチ、1/4 インチ、1/8 インチと各種ありますが、現在、計測用途としては 1/2 インチタイプのものが主流となっています。サイズが小さくなるほど高い周波数まで音場を乱さないので好ましいのですが、小さくなると感度も低くなるので使用しづらくなります。なお、音場を乱すことを極力嫌う実験では、より小口径のタイプを選択する必要があります。
4.2 レスポンスタイプ
音圧型と音場型の2つのタイプがあります。一般には音場型が用いられますが、ダクト内の音を計るような特殊な場合には、音圧型を使用します。 マイクロホンを音場中におくと、マイクロホンの振動膜に加わる音圧 P は、マイクロホンが無いときの音圧 P0(音場音圧)とマイクロホンをおいたことによる増加分 ΔP0 の和( P = P0 + ΔP0 )となります。 ΔP0 は、周波数および入射角により異なります。
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図4 音場中のマイクロホン振動膜に加わる音圧 |
音圧型は、P0 + ΔP0 に対して出力の周波数特性がフラットになるタイプのマイクロホンです。音場型は、入射角 0°(正面入射)の P0 に対して出力の周波数がフラットになるタイプのマイクロホンです。 なお、音場型のタイプでも入射角 0° 以外の時は、次図から明らかなように、高域の特性が変化するので注意が必要です。
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図5 音圧型と音場型マイクロホンの周波数特性 |
4.3 周波数特性
計測に必要な帯域を十分カバーし、できるだけフラットなものから選択します。高い周波数まで必要なときは、音場を乱すことが考えられるので、 4.1 項のサイズも合わせて考慮します。 また、4.2 項の図からもわかるように正面入射音に対してはフラットでもそれ以外ではフラットになる帯域が限定されてしまうので、音源とマイクロホンの位置関係にも注意が必要となります。
4.4 温度特性
マイクロホンの安定性を左右する重要なファクターです。せっかく苦労して取ったデータも再現性がないのでまた取り直しということだけは避けなければなりません。 その意味からも温度係数はなるべく小さなものを選ぶのが安全です。
4.5 自己雑音レベル(自己ノイズ)
マイクロホンに音が入っていなくても出力される信号の大きさで、この値が小さいほど、小さな音でもノイズから分離して検出できます。
以上をチェックした後、測定対象に最適なセンサーの選択に入ります。