音の方向

音の方向

おとくん

昨日学校で避難訓練があったんだ。体育館に集まってたときに放送が流れて、先生が放送の音が聴こえる方向に避難しなさいっていうんだ。 みんな初めてのことだし、最初はよくわかんなかったんだけど、結果的には、体育館の真ん中辺りから2箇所に分かれて避難できて、訓練は成功だったみたいだよ。

お父さん

おとの学校は、先行音効果を利用した避難誘導システムを導入したって聞いているから、その訓練だったんだね。

おとくん

先行音効果?

お父さん

人間は、いろんな方向から音が到来するときに、最初に到来する音の方向に音源の方向を知覚するんだ。 避難誘導システムで、先行音効果を利用するのは、出口がいくつかあって、どこから出れば安全かわからない場合や、また、方位がはっきりわからない状態を想定すると、音で場所を導くことで、より安全な場所から短時間で避難できるようにするためなんだよ。

おとくん

いくつか音があっても、最初に到来する音に、その音の方向を感じるって言うこと?

お父さん

定位という言葉は、おとはまだ知らないと思うけど、ステレオでスピーカからの距離がほぼ等しいところでは、音は真ん中に聞こえるよね。これは、両方のスピーカの真ん中の位置に音が定位するというんだ。ところが、少し片方のスピーカに近づくと、距離の近い方のスピーカに定位するだろう。それは近いスピーカからの音が早く到来するからなんだよ。

おとくん

音の大きさは関係ないの?

お父さん

いい点に気がついたね。実は音の大きさも関係するし、最初の音と次の音の時間差にも関係するんだよ。音源の種類にもよるけど、遅れ時間が30ms以内で、次の音が最初の音より10dBより大きくなければ、この先行音効果は成り立つんだ。

おとくん

ということは、学校の体育館のスピーカシステムには、そんな仕掛けがしてあるんだね。

お父さん

そうだろうね。誘導がうまく機能するためには、先行音定位の条件を満たさなければならないから、先行音のレベルが、どのスピーカに近づいても、そのスピーカの音より10dB以下のレベルにならないように設計されていないといけないよね。

おとくん

訓練では、真ん中辺りにいた生徒がどっちに出ればいいか迷っていたよ。

お父さん

出口が1箇所なら、比較的容易に条件を決められるけど、逆に1箇所に集中すると、避難に時間がかかることもあるしね。火事が起きた場合など、どこが最も安全な出口かをリアルタイムに監視するシステムと連動するようにしないといけないんだろうね。

おとくん

音がどちらの方向から来るかは、耳が2つあるからわかるって聞いたことがあるけど・・・。

お父さん

1つの音がどの方向に定位するかは、両耳に入る音の時間差と、ちょっと難しいけど、頭部伝達関数といって、耳も含めた頭の形も寄与してるんだよ。右から来る音は、右耳には直接到達するけど、左の耳には、頭の周囲を廻り込んで到達するだろう。前に 防音壁の話で回折のことを教えてあげたよね。

おとくん

防音壁の場合は、直接音源が見えなくても、回折によって、低い周波数ほど音がとどいてしまうということだったよね。

お父さん

そうそう。頭の場合も、その周囲を回折して直接見えない耳に到達するわけだけど、音が入射する角度によって耳と頭の関係が違うから、回折の効果は音の入射角によって変わるんだよ。

おとくん

だから人間は、目を閉じていても、音の到来方向がわかるんだね。

お父さん

そうだね。この話は、両耳効果って言って、もっと面白い話があるけど、それは次にしよう。

おとくん

じゃ、両耳効果は、また今度教えてね。音の計測で、どこから音が来ているかがわかる機器ってあるの?

お父さん

いくつか手法があって、計測器としても使われているものがあるんだよ。まず、音響インテンシティといって音のエネルギーの流れを計測するシステム(近接したマイクロホンの音圧を測って近似的にインテンシティを計算している)。また、最近は、多数のマイクロホンを平面状に配置して測定するビームフォーミングという手法や、音響ホログラフィという手法も用いられているよ。

おとくん

いろいろあるんだね。それは、工場の騒音がどこから来ているかとか、どこから音が漏れてきているかとかを調べるために使うの?

お父さん

そうだね、機械から発生する騒音を低減したり、建物の壁などからの音漏れを対策するためには、どこからその音が出ているか、発生源や遮音欠損部位を突き止めることが必要だよね。そういう場合に、対象となる機械からの音の性状(音の大きさ、高低、定常的な音か過渡的な音か・・など)に応じて、それに適した手法で音源の探査をするんだ。

図1

を見てごらん。これは、自動車が走っているときに、タイヤが路面との接触で発生する音の部位を、100本のマイクを使って、近接場音響ホログラフィという手法で計測・解析し可視化した結果なんだ。

おとくん

100本もマイクを使うの?

お父さん

マイクを沢山用いて、一度に測定することで、ある程度の広さをカバーして、どこの部分の音が大きいか細かく分析することができるんだよ。人間はある面では音のセンサーとして優秀な耳を持っていて、先行音効果のような特性を利用して、避難システムに音が利用される一方で、同時に複雑で細かいところで発生している音を見分けるためには、こういった機器が使われるんだね。

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