音と脳

音と脳

おとくん

日本人と西洋人とでは音が耳から入ってきたときに処理する脳の場所が違うって本当?

お父さん

30年以上前に研究された角田博士の論文が発端だけど、 日本人の脳 という本にそのことが書かれて広く知られるようになったんだよ。

おとくん

どんな違いがあるの?

お父さん

まず、脳には左右の脳があることは知っているだろう? 日本人と西洋人の様々な音に対して活動する脳の違いを示した図( 図1参考文献1 ) があるから、それで説明しよう。 左の脳は、言語脳、右の脳は音楽脳、芸術脳ともいわれていて、それぞれ左で理性的認知、右で感性的認知の役割があるとされているんだけど、日本人の左脳には理性的・感性的認知が混在しているそうなんだ。
図1
図1

おとくん

この図を見ると、日本人は、西洋人に比べて、左脳でいろんな音を聞いているんだね。

お父さん

そうだね。特徴的なことは、母音を左脳で聞いていることなんだ。 もともと角田博士の実験も、言語と非言語を左右の脳のどちらで優勢に受容されるかというテーマでの実験だったんだ。そのときにどんな試験音を用いたかというと、非言語音は、1 kHz の純音、そして、言語音は、人の言葉を代表して持続母音の「アー」という音だったんだ。

おとくん

その試験音をいろんな国の人に聞かせてどちらの脳で聞いているかを調べたの?

お父さん

そうだよ。脳の活動部位を特定するには、現在ではfMRI(機能的磁気共鳴画像法)といって、 脳の血流の変化から計測できるものがあるけど、当時は、左右どちらの側の脳が音声を処理しているのかを判定する脳幹システムの切替メカニズムを測定するアナログ装置による実験だったようだよ。 この結果の信憑性について疑問を持つ研究者もいたようだけど、脳波とMEG(脳磁図)という手法で、別の研究者によって追実験が行われたんだ。

おとくん

その結果は、角田博士の結果と同じだったの?

お父さん

母音の刺激に対しては、日本人は左脳、アメリカ人は右脳が活動した結果になって、角田博士の発見を実証することになったんだよ。 (参考文献 2) 他にも、こおろぎなど虫の音もおなじ傾向を示したんだ。

おとくん

この図( 図1 ) で、邦楽器って日本の楽器のことでしょ。 日本人は、おなじ楽器でも邦楽器の音は左脳で西洋楽器の音は右で聞くなんて不思議だね。 この間 解析した三味線の音も、日本人は、左脳で聞くけど、西洋人は、右脳で聞くということだよね。

お父さん

そうだね。それも特徴的な違いだね。 日本人は、邦楽器をはじめ自然の音などの母音的な構造を持つ音は、すべて言語脳の左脳で受容しているんだ。 寺の鐘の「ゴォーン」も、余韻の部分は母音的な音に聴こえるかもしれないね。

おとくん

他のアジアの国の人たちや、日本人で海外で育った人たちはどうなの?

お父さん

この音に対する脳の日本人の特殊性は、今のところ、すべて日本語という言語に起因するといわれてるんだよ。 だから、韓国人や中国人も、西洋人と同じ傾向を示すし、日本人であっても、日本語を母国語としない人は、左右の脳の振り分けは、西洋人と同じということなんだ。

おとくん

虫の音も日本人は言語脳の左脳で聞くんだね。

お父さん

虫の音も、日本人は特有の聴き方をしているんだよ。 虫の音のことは、面白い話があるから今度まとめて話してあげるよ。

左脳で聞いているんだ 虫の音

おとくん

日本人は音に対してほかの国の人々と違う感覚を持っているとすると、何か問題になることはないの?

お父さん

感覚が違うとははっきりと言えないとは思うけど、特に虫の音や、雨の音などの自然音に対しては、音を単純に物理的に扱うのではなく、季節を感じたり、人の気持ちと重ねたり、意味を見出しているところが他の国の人との大きな違いだよね。 これは自然に対峙しないで、自然を取り込む日本の文化にも影響しいているし、日本人は、そのことにもっと自覚的であってもいいかもしれないね。

 

※参考文献1  例えば 「音楽の根源にあるもの」 小泉文雄 著 平凡社 音感覚と文化の構造 (角田忠信氏との対談)
※参考文献2  「日本人の脳に主語はいらない」 月本 洋 著 講談社選書 メチエ


 

 

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