アイソレーション

電気信号を絶縁することをアイソレーションといい、信号源のコモンがグランドの電位と異なる場合の測定に必要です。信号コモンとグランド電位の差(同相電圧)が小さい場合は差動入力でも測定可能ですが、電位差が100 V以上ある時には過大入力になるので測定できません。この場合アイソレーションアンプなどを用いることがありますが、FFTアナライザーについては、アンプ、アンチエリアシングフィルタ、AD変換器までのアナログ入力部を各チャンネル毎にフォトカップラでシャーシグランドからアイソレートさせて対応させています。このためデジタル回路とアナログ回路が絶縁されているので、グランドループの除去または信号源のコモンとの接続を排除したい場合にも有利です。

 

インパルス応答(インパルスレスポンス)

線形系に単位インパルス δ ( ) を加えたときの系の応答 () をインパルスレス応答といいます。インパルス応答は系の特性を時間領域で表現したもので、これに対し、周波数領域で表現したものが 周波数応答関数であるといえます。

系のインパルス応答がわかっていれば、その系に ( ) が入力されたときの出力 () は、畳み込みの演算によって求めることができます。

弊社のFFTアナライザーでは、周波数応答関数を逆フーリエ変換してインパルス応答を求めています。

 

位相スペクトル

周波数の関数としての位相表示は、主として;

(1)1チャンネルの位相スペクトル

(2)2チャンネル間の位相差

の2種類あります。

(1)1チャンネルの位相スペクトル

   時間関数のフーリエ変換は;


  

(1)式のを本器では特に(複素)フーリエスペクトルと呼びます。は複素関数であるので、実数部と虚数部より、振幅と位相として表すことができます。


   

より


    

    


(2) はフーリエスペクトルの振幅(MAG 表示)で、(3) は本器では特に位相スペクトルと呼んでいます。

本器では、位相はデータフレームの始点を時間原点として、cos波の位相を0度としています。(2)の X (f ) が同じ信号でも、位相スペクトル θ (f )が異なっていれば、時間信号 x (t ) の波形は大きく変わります。

位相スペクトルを測定する場合は、普通、トリガ機能を利用して、ある位置を基準としての位相の進み遅れを観測します。応用としては、主として回転体のフィールドバランシングに利用されます。


(2)2チャンネル間の位相差

2チャンネル間の位相差は、複素関数である伝達関数(あるいはクロススペクトル)の位相表示として得られます。系の伝達関数(周波数応答関数)を( )とすると;


H (f )|は系のゲイン特性を表し、θ (f ) が2チャンネル間の位相差を表します。

 

ウィグナー分布

ウィグナー分布は量子力学の分野において、E. Wigner により提唱されたものであり、非定常信号に対して拡張されたパワースペクトルというような性質をもつものです。従来のFFTでは時間分解能―周波数分解能が相補的な性質(周波数分解能を上がるとサンプル時間が長くなる。)を有しているため、非定常的な信号の瞬時的なスペクトルを良好な分解能で求めることは困難でしたが、これに対しウィグナー分布では時間分解能―周波数分解能の相補的な制約を直接受けないため、周波数―時間平面上でパワースペクトルの良好な時間―周波数分解能を得ることができます。しかしながら、計算点数がFFTと比較して非常に多いことから、実用的ではありませんでした。Oscope 時系列データ解析ツール(ソフト)のオプション OS-0263 時間-周波数解析ソフトを使用することで、ウィグナー分布の解析ができます。

 

ウインドウ(時間窓)

FFT処理は、サンプリングされた数値データ系列のうち、ある区間(例えば1024点とか2048点)のデータについて行われますが、このように波形の一部を切取ることをウィンドウ(時間窓)で波形を切取る、またはウィンドウをかけるといいます。フーリエ変換は無限長のデータを処理することで定義されています。離散的フーリエ変換(DFT)においてもこれは変わらず、FFTアナライザーでは、ウィンドウで波形を切取ると、その区間の波形が無限に繰返されるという仮定で信号解析を行います。このとき、解析データ長(ウィンドウの長さ)がそれぞれの周波数の周期の整数倍になっていれば、FFTアナライザーで仮定された波形は実際の入力波形と一致し、単一のラインスペクトルが得られます。ところが、解析データ長が周期の整数倍と一致していない場合(周波数分解能にあてはまらない場合で、始端と終端がつながらない)は、ひずんだ波形を処理することになり、そのスペクトルはパワーが集中しないで、左右に広がり(サイドロープ)が生じてしまいます。このパワーの漏れをリーケージ誤差と呼んでいます。そこでこのリーケージ誤差を防ぐのが、ウィンドウ処理です。フレームの両端がゼロとなるような山型の関数をフレームに掛合せれば、始端と終端がつながり誤差が少なくなります。このような関数をウィンドウ関数と呼び、ウィンドウ関数により解析信号を同期させる処理のことをウィンドウ処理といいます。その結果、スペクトルの形はラインスペクトルに近づいています。

ウィンドウとして代表的なものがハニングウィンドウですが、その他解析信号に応じてそれぞれ適したウィンドウを使用します。

 

エイリアシング(折返しひずみ)

サンプリング定理では信号の最高周波数成分に対し2倍以上の速度でサンプリングすることが必要であり、サンプル周波数の1/2の周波数をナイキスト周波数といい、ナイキスト周波数以上の成分が信号に含まれていると、エイリアシング(折返しひずみ)が生じます。

 

エネルギースペクトル密度(Energy Spectral Density)

打撃法などによるインパルス状の有限なエネルギーに対し、これをエネルギーで規格化して表示します。 これは、パワースペクトル密度にさらに取り込み時間(ウィンドウ長、T=1/⊿f)をかけることにより求めます。

 

オーバーオール

分析周波数レンジまでのパワーの総和(オーバーオール)です。オーバーオール値は、以下により求められます。


  1. 片振幅値(Peak 値)を基準としている場合(当社モデル:CF-350/360*、CF-900 シリーズ*、CF-880* 等)


  1. 実効値を基準としている場合(当社モデル:CF-5000 シリーズ*、CF-3000 シリーズ*、DS-2000 シリーズ* DS-3000シリーズ)(*:販売終了)

 
ここで
PDC:DC成分
Pi :得られた i 番目のパワースペクトル (二乗値相当)
 N :周波数ライン数
 Hf:ウインドウ補正値

   ハニング → 2/3
フラットトップ→ 0.316 (CF-350/360)
0.2724 (DS-2000/CF-3000シリーズ)

   その他 → 1

 * Hf は機種により変わりますので、正しくは説明書をご参照ください。



PDC、Pi はパワーですので、(片振幅値)2、(実効値)2 となります。オーバーオールは入力時間信号の2乗平均値と等しくなります。

パーシャルオーバーオールは、区間を指定した、その範囲内のパワーの総和になります。

パワースペクトルの数値がdB値の場合は、dB → 2乗値に戻してから上記式に当てはめてください。

Pi=10(dB値/10)

dBでのオーバオール値は 10×log(O.A) になります。

※ 周波数微積分時には、オーバーオールへのウィンドウ補正による影響があります。ウィンドウ補正が無い場合(レクタンギュラ)では影響はありません。

 

オーバーラップ処理

リアルタイム解析周波数以下の場合ウィンドウをオーバーラップして、FFT 解析を実行できます。

例えば1024点ごとのデータをFFT 処理しますが、このとき、新しくサンプリングされたデータと以前のデータと重ねて(オーバーラップして)FFT 解析を 実行します。オーバーラップ量が大きいということは、それだけ信号時間の変化をより細かく計測できることになります。

 

オービット(リサジュー)

2つの信号を直交するx,y軸上で合成した図形をオービットまたはリサジューといい、2信号の振幅、周波数比、位相差の組合せによって視覚的な特長を示します。また、周波数比が整数のときには描かれる図形の軌跡は一定の周期で元に戻ります。

 

オクターブ分析

パワースペクトルが分析周波数を一定の幅に分割して(定幅型)各帯域毎のパワーを表すのに対し、音響分野での周波数分析器では周波数軸を対数スケールにとり、対数スケール上で等分に分割する定比幅の帯域フィルタを通過させることにより、周波数分析を 行う場合が多くあります。帯域幅は1オクターブ幅および1/3オクターブ幅が一般的で、このような分析をオクターブ分析といいます。

一般に、周波数軸上で、下限の遮断周波数 f1 に対し、上限の遮断周波数 f2 を2倍の周波数にとったとき、すなわちとすると、 f1f2 の間隔がオクターブであり


  

がオクターブの中心周波数となります。
1/3オクターブはオクターブをさらに3つに分割したもので、 f1 に対し、 f2 倍、すなわち、中心周波数は


  


となります。

IEC 61260(JIS C 1514)の規格では、オクターブバンドの中心周波数、およびフィルタ特性が定められており、アナログまたはデジタルのオクターブ分析器はこれに統一されています。

 

音響インテンシティ

SI(Sound intensity)または AI(Acoustic intensity)
音響インテンシティとは、音場のある点を含む単位断面積を単位時間内に通過する音のエネルギーで、その点の音圧 ( ) と方向の粒子速度 の積の時間平均で定義されるベクトル量である。


一方、密度 の流れのない媒質中では、() と との間には次式が成り立つ。



しかし、粒子速度を正確に直接測定することは極めて困難なため、近接した2点の音圧の差から粒子速度を近似的に求める方法が考察され、これが2マイクロホンによるSI測定法である。即ち、r 方向に⊿r だけ離れた2個のマイクロホンの音圧 を用いて、 を次のように近似値として求める。


 



(4)式を(2)式に代入すると、r方向の粒子速度 は(5)式で表される。


これより音響インテンシィIr は次のようになる。



この式は、Ir を時間領域で直接計算するもので直接積分法と呼ばれる。

更に、任意の周波数帯域 f1 ? f2 での r 方向のSI 値 (Ir) を求める方法として、(7)式を用いることも多い。

 

 

 ここで、Im{12()} は、p1 (t)、p2 (t) の(片側)クロススペクトルの虚数部を表す。これは、2チャンネルFFTアナライザーを用いて、近接した2点における音圧信号の間のクロススペクトルを求め、この虚数部について、上式の計算を行うことにより、任意の周波数帯域の Ir が求められる。この方法は、クロススペクトル法と呼ばれている。SI測定法の計測誤差として、⊿r が有限であることによる有限差分誤差および2系統のマイクロホン間の感度、位相の不一致による誤差などがあるが、この補正法については、種々の検討がなされている。

次に、SI測定法の応用例をいくつかあげる。

 

(1) 音源のパワーレベル測定

音響インテンシティは、単位面積を単位時間内に通過する音のエネルギーの量を表し、音源から放射される総パワーPは、

Iri : 面 si に垂直な音響インテンシティ、si:I番目の面積)

で与えられる。これより、音源を中心とする半球面で、球面と直交する方向にて、分割された面積における音響インテンシティの測定から、音響パワーが算出される。

 

(2) 遮音測定

SI法によって部位ごとに透過パワーを測定することにより、複数の部位からなる壁の遮音性能や隙間からの漏音の程度を定量的に測定できるので、現場での遮音測定に有効である。

 

(3) 音場解析

SI値は、ベクトル量であるから、音の伝播方向と大きさを2次元、もしくは3次元表示することにより、音のエネルギー流を視覚化して、捉えることができる。