10-7 記録事項

音響測定結果に加え、下記項目も記録することが望ましいとされています。

(1) 測定方法

(a) 測定器の種類、測定方法または計算方法
(b) 基準時間帯、実測時間及びサンプリングによる方法の場合はそのサンプリング時間間隔、回数など

(2) 測定時の条件

(a) 大気の状態:風向・風速・雨・地上及びその他の高さにおける気温、大気圧、相対湿度
(b) 地表の種類及び状態、騒音源の変動性等の性質、特定騒音の有無とその特徴、方向など
(c) 測定点(位置、高さ)

 

10-8 附属書 1(規定)適正な土地利用のための音響データの収集

(注意)

JIS Z 8731:1999 の本附属書 1(規定)は、ISO 1996-2:1983 を翻訳したものに相当します。

(1) 概要

この規定は特定の地域における環境騒音の表示、現在または将来予想される騒音を考慮した土地利用の適性さの評価としての具体的な測定方法を示しています。環境アセスメント法に適応される規制と考えられます。また長期平均等価騒音レベルまたは長期平均評価騒音レベルがあるレベルの間になっている領域を 5 dB 毎の騒音レベルゾーンとして地域の地図上に色分けして等高線的に表示します。

(2) 基礎データの収集

次の基本的データの収集が必要です。

(a) その地域の地勢情報

(b) その地域における居住状況及び周辺の情報として、風向、風速、雨量、気温に関して通年の統計情報

(3) 音響データ

騒音源及び対象とする地点の特性を考慮しそれぞれの時間帯について、特定の地点における代表値として、評価騒音レベル、長期平均等価騒音レベル、長期平均評価騒音レベルを求めることが目標になります。また、騒音レベルの分布を考慮するため、時間率騒音レベルを求めておくことが望まれています。
(3-1) 測定点の位置と数

対象とする環境騒音を記述する上で適当な屋外を、空間分解能を考慮して選定し地図上に明示します。
例として:

(a) 対象とする地域全体を等間隔な格子状とし、その交点と、音源の近くでは 5 dB 以上の差が出ないよう密にして適当な点をとる

(b) 特定の地域の平均レベルを代表する点を選定する

(c) 対象とする地域に存在する騒音源が放射する騒音の特性を把握できる地点を選定する

(3-2) マイクロホンの位置

10 章 5 節での屋外、建物の周囲における測定に準じます。高い建物が建てられると予想される地域では、高さ 3 m 〜 11 m とするなど必要に応じ個別に定めます。また 3.5 m離れられないとき、開放窓では窓から 0.5 m 離れた位置で測定します。また外壁から 1 m 〜 2 m 離れて測定した場合、卓越した帯域音を含んでいない場合は測定値から 3 dB を減じた値を建物がない場合の音圧レベルとみなせます。

(3-3) 時間の設定

(a) 基準時間帯

基準時間帯及び実測時間を適切に設定するため、長時間にわたる予備測定を行なうことが望まれます。基準時間帯は、居住者の典型的な生活態様及び騒音源の種々の稼動条件など考慮してきめます。

(b) 長期基準時間

騒音制御の目的、対象とする地域の特性と居住者の生活態様、騒音源の稼動状況及び、騒音の伝播条件の変化を考慮し、騒音の発生状況の長期的変化を含むように設定します。

(c) 実測時間

対象とする基準時間帯の騒音の種類に応じて等価騒音レベルを求めますが、等価騒音レベルが安定して選ばれるように、また長期平均等価騒音レベル及び長期平均評価騒音レベルが精度よく推定できるよう、騒音の発生、伝搬の変化に応じて設定します。 航空機や電車など通過する音源がある場合には、通過時の単発騒音暴露レベルが測定できるように設定します。また雨や強風を避け、再現性があり安定した騒音の伝搬となる気象条件を選びます。特に卓越した騒音源がある場合は、順風で、地上 3 m 〜 11 m の高さにおける風速が 1 m 〜 5 m/s の範囲で、地表近くに強い気温の逆転が生じていない条件で測定します。

(3-4) 音響データの収集

(a) 連続測定による方法

基準時間帯全体を実測時間とする。強風、豪雨のときや対象とする地域の代表的な騒音以外の騒音の影響が強い場合は、測定誤差が大きくなるので除外する。

(b) 時間サンプリングによる方法

基準時間帯の間にいくつかの離散的な実測時間を設定し、その間の測定結果から等価騒音レベル、評価騒音レベルを求めます。

(4) 騒音のレベルの予測

建設が計画されている工場、道路、航空機、鉄道などの交通施設から放射される騒音の状況を予測する場合、計算または縮尺模型実験によっても良いとされています。

(5) 騒音レベルゾーン及び結果の表示

現状の環境騒音の測定結果、また計画されている事業の騒音の予測結果の報告に、騒音レベルゾーンによる表示が推奨されています。縮尺地図に 5 dB 毎の等高線とそのゾーン毎に色またはハッチングで区別します。また測定点は○、予測地点は×で明記します。 なお、色、ハッチングは騒音レベルゾーンの値により定められています。 また必要とされる記録事項、報告事項として気象条件、騒音源に関する事項、地表の状態、対象地域、予測目的、データなどが定められています。

(注意)

この付属書 1 の内容は、後述の環境アセスメント法に関連しています。 当社では、これに対応する環境予測ソフトウェア「SoundPLAN」を用意しております。

 

10-9 附属書 2(参考)環境騒音の表示、測定方法に関する補足事項

騒音の時間変動特性を表す場合に用いられる時間率騒音レベルの求め方、特定の間欠騒音や衝撃騒音の表示・測定方法及び定常騒音に対する暗騒音の影響の補正方法について、旧 JIS Z 8731/1983 年(騒音レベル測定方法)で規定されていた内容を取りまとめ、参考として示されています。

時間率騒音レベルに付いては 9 章 5 節を、騒音の種類については 10 章 3 節をご参照ください。

(1) 特定の間欠騒音、衝撃騒音の表示・測定方法

本編に規定されている、単発騒音暴露レベルの測定の外、次の方法によります。 対象とする間欠騒音または衝撃騒音があるときと、無いときの騒音計の指示値の差が 10 dB 以上であれば暗騒音の影響はほぼ無視できます。その差が 10 dB 未満では、暗騒音の影響を受けますので、(2)に準じた暗騒音補正をおこないます。ただし継続時間が短い場合は、暗騒音補正は適用できません。

(a) 特定の間欠騒音

イラスト(間欠騒音レベルの読み取り)

図 10-1 間欠騒音レベルの読み取り

上図 10-1 のように騒音の発生ごとに、騒音計の指示値の最大値を読み取ります。特に定めがある場合を除き騒音計の動特性は Fast を用います。最大値がほぼ一定の場合は数回の平均値で表示します。発生ごとに最大値がかなりの範囲にわたって変化する場合には多数回の測定を行って、測定結果のエネルギー平均、累積度数分布の 90 % レンジの上端値(L5)などを求めて代表値とします。使用した時間重み特性や騒音の発生頻度、1 回ごとのおおよその継続時間なども記録をしておきます。

(b) 特定の衝撃騒音

  • 特定の分離衝撃騒音:(a)の特定の間欠騒音の測定に準じて行います。

  • 特定の準定常衝撃騒音:騒音計の Fast 特性による騒音レベルの最大値を読み取ります。

(2) 定常騒音に対する暗騒音の影響の補正

特定の定常騒音の騒音レベルを測定するとき、その騒音があるときと無いときの騒音計の指示値の差が 10 dB 以上あれば暗騒音の影響はほぼ無視できますが、10 dB 未満のときは無視できなくなります。 その場合は次表により指示値を補正することにより、定常騒音のみがある時の騒音レベルを推定することができます。

表 10-2 暗騒音の影響に対する騒音計に指示値の差(単位:dB)

対象音があるときと無いとき指示値の差 4 5 6 7 8 9
補正値 -2 -1

 

(注意)

暗騒音の影響による測定誤差を補正する方法は、対象とする特定騒音と暗騒音がともに定常騒音であることを前提にしています。 特に暗騒音レベルが対象とする特定騒音レベルに近く、変動している場合には補正の意味が無い場合が多くなります。

 

【補足】:暗騒音補正について

JIS Z 8731:1999「環境騒音の表示・測定方法」は、表題の通り、主に一般環境及び作業環境などの騒音測定方法としての内容となりました(ISO 規格と整合させるため)ので、特定の騒音とその他の騒音(暗騒音)という考え方になじまなくなり、「暗騒音の補正」が規定からはずれています。上記の附属書 2 も旧 JIS(JIS Z 8731:1983、騒音レベル測定方法)から引用されていて、“参考”となっています。 放射音圧レベル測定など機械騒音の測定方法として新たに JIS Z 8737 シリーズが新規作成され、この中に明確に暗騒音補正機能が規定されていて、具体的には暗騒音補正値 K1(正の値)が定義されています。

式10-8

式 10-8

 

ここで、Δ L は、測定対象機器の作動中の音圧レベルと暗騒音レベルとの差であり、この値がある値以上(実用級では 6 dB、簡易級では 3 dB)で補正可能で、実測値から K1 を引くことにより、補正ができます。

なお、式 10-8 は、以下のように求めることができます。

暗騒音を含んだ作動中機械の音圧レベルを LT、暗騒音レベルを LB とすると、指定の機械だけの音圧レベル LS は、

式10-9

式 10-9

式10-10

式 10-10

 

だから、暗騒音補正値 K1 は、

式10-11

式 10-11

 

式 10-8 のグラフは、図 10-2 となります。

データ(暗騒音補正でのΔLと環境補正値k1との関係)

図 10-2 Δ L と環境補正値 K1 との関係

 

表 8-3 新旧 JIS の内容の比較と騒音のレベル

  新 JIS(JIS Z 8731:1999) 旧 JIS(JIS Z 8731:1983)
目的適用範囲
  1. 一般の環境における騒音の大きさを表示するための標準的な方法を示す。
  2. 土地利用に関して環境騒音の標準的方法を示す。
  3. 各種規格との整合性を取るため旧 JIS の内容を参考に示す。
一般の環境騒音および作業環境における騒音の測定方法を示す
評価量 A 特性音圧:pA
音圧レベル:Lp
騒音レベル:LpA
時間率騒音レベル:LAN,T
単発騒音暴露レベル:LAE
等価騒音レベル:LAeq,T
長期平均等価騒音レベル:LAeq,LT
評価騒音レベル:LAr,T
長期平均評価騒音レベル:LAr,LT
A 特性音圧:pA

騒音レベル:LA
時間率騒音レベル:Lx
等価騒音レベル:LAeq,T
単発騒音暴露レベル:LAE

用語 実測時間
基準時間
長期時間
実測時間
観測時間
騒音の種類、分類
  • 種類
    総合騒音、特定騒音、初期騒音
  • 時間変化での分類
    定常騒音、変動騒音、間欠騒音、衝撃騒音、分離衝撃騒音、準定常衝撃騒音
環境騒音、特定騒音、暗騒音

定常騒音、変動騒音、間欠騒音、衝撃騒音、分離衝撃騒音、準定常衝撃騒音

測定器 JIS C 1509-1 Class 1(精密騒音計)
JIS C 1509-1 Class 2(普通騒音計)
JIS C 1512(レベルレコーダ)
に適合し、等価騒音レベル、単発暴露レベルが測定できるもの
JIS C 1505(精密騒音計)
JIS C 1502(普通騒音計)
JIS C 1512(レベルレコーダ)
または同等以上のもの
測定/評価方法 次の測定で LAeq,T を求める
  • 変動騒音:積分平均、サンプリング法、統計分布による方法のどれか
  • 定常騒音:Slow 指示値の平均の読取値
  • レベルが段階的に変化する騒音:各段階の定常騒音とその時間から計算
  • 単発的な騒音:LAE から計算
定常騒音:騒音計指示値の平均
変動騒音:LAeq,T または LX
特定の間欠騒音:Fast LA のピーク値または LAE から LAEeq,T を計算
間欠騒音を含む環境騒音:LAeq,T
特定の分離衝撃騒音:Fast LA のピーク値
特定の準定常衝撃騒音:Fast LA のピーク値
衝撃騒音を含む環境騒音:LAeq,T
測定点 屋外:反射物から 3.5 m 以上離れ、特に指定がない限り地上 1.2 〜 1.5 m の点

建物の周囲:特に指定がない限り建物の外壁から 1 〜 2 m 離れ、対象とする建物の床から 1.2 〜 1.5 m の点

建物の内部:特に指定がない限り壁などの反射面から 1 m 以上、窓などの開口部から 1.5 m 以上離れ、床上 1.2 〜 1.5 m の点

屋外:反射物からから 3.5 m 以上離れ、地上 1.2 〜 1.5 m の点。街頭では車道と歩道の区別がある場合は車道側の歩道端、区別の無いところでは歩道端で地上 1.2 〜 1.5 m の点

建物の周囲:建物の外壁面から 1 〜 2 m 離れ、対象とする建物の床から 1.2 〜 1.5 m の点。窓の前面では窓の中心線上窓から 1 0 m 離れた点

建物の内部:壁などの反射面から 1 m 以上、床上 1.2 〜 1.5 m の点

作業環境:作業者の耳の位置。または作業者の動線上の代表的な位置で床上 1.2 〜 1.5 m の点

補正 評価騒音レベル:純音補正、衝撃音補正 暗騒音補正
校正 測定前に音響校正器による校正が必要  

 

10-10 測定に影響を与える環境条件

(1)気象条件、地形、地表面形状

騒音が屋外を伝播する場合に、風や気温などの気象条件や地形あるいは地表面形状などによって、大きく影響を受けることがあります。例えば、風による影響としては、風が無いときに比べ、一般に順風のときには伝播音の大きさは増大し、逆風のときには減少します。また、気温による影響としては、一般に気温の垂直方向の分布が、上空ほど低温で地表面で高温の場合には音が伝播し難く、上空ほど高温で逆転層のある状態のときには伝播し易くなります。地面に沿って音が伝播する場合、一般に田畑や草地などの吸音性の高い地表面上では、舗装面などの反射性地表面上と比べて音の減衰が大きく、遠くまで伝播し難くなります。したがって、騒音測定時の条件として、天気などとともに測定点近傍での風向き、風速、温度、相対湿度などの気象条件、及び地形や地表面形状などをできるだけ明確に記録しておくことが必要です。

(2)風雑音の影響

騒音計のマイクロホンに強い風が当たると、その部分でいわゆる風雑音が発生し、特に測定対象の音が風雑音に比べて相対的に小さいときなどには信号対雑音比が不足して、測定が不可能となります。従って、屋外や風を発生する機械類の近傍などで騒音を測定する場合には、風雑音を低減させるために工夫された防風スクリーンを装着する必要があります。ただし、風速が大きくなると防風スクリーンによる風雑音の低減効果にも限界があるため、強風時の測定は避けるべきです。

(3)その他環境条件の影響

電気機械類の近傍では、強い電界・磁界が形成されていることが多く、そのような場所に騒音計を置くとマイクロホンや騒音計本体の電気回路部分に影響が及び、指示値が不正確になることがあります。マイクロホンケーブルを延長して使用する場合には、延長ケーブルの部分でこれらの影響を受け易くなります。また、各種の機械類などが発生する振動が騒音計本体に伝わり、測定に影響を及ぼすこともあります。さらに、高温や多湿の環境条件下では騒音計などの計器類に支障を来たすことが有ります

以上述べたように、各種の影響があるため、事前にそれらの影響の有無と程度を確かめておくことが必要であり、影響が問題となりそうな場合には、影響の要因毎に適当な遮蔽や防振などの対策を工夫するとともに、測定点の選定に十分注意することが大切です。

 

10-11 音の伝搬と距離減衰

第 1 章にも記しましたように、音(音波)は、空気中を約 340 m/s の速度で伝搬して伝わっていきます。 その時、特に遮断や吸収などの妨害物がなくても、伝搬した距離によって、その強さ(音圧レベル)は、減衰します。 すなわち、音波は四方八方に広がる(発散)ことにより減衰する性質を持っています。この性質を音の距離減衰と呼びます。 音波は波動現象ですから、1つの音源から遠くなるにつれて伝搬する面積が広がるために音の強さ(単位面積当たりの音のエネルギー)は、弱くなっていきます。 特に、音源が点音源と見なせる場合は、自由空間中を球面上で伝搬すると考えてよくその面積は 4πr2(ここで、r は音源からの距離)ですから、音の強さは距離の2乗に反比例して減衰します。 これを逆 2乗則といいます。

図 10-3 において、点音源 P からの距離 r1、r2 における音圧レベルをそれぞれ L1L2とすると;

式10-12

式 10-12

;との関係となります。例えば、距離が 2 倍になると、6 dB だけ小さくなります。

 

イラスト(点音源からの拡散と距離減衰)

図 10-3 点音源からの拡散と距離減衰