この間、お父さんが話してくれた倍音の話の中で、人間の音声を聴く能力の一つに、なんとかパーティ現象があるって言ってたでしょ。
「 お酒と軽食の立食形式のパーティーのことだよ。パーティ会場は、普通話し声や音楽などが混じりあって騒がしいだろう。そんな中でも、会話の相手の声や、少し離れていても関心があることや注意して聴こうとすると聴き取れることで、この名前がついたんだ。複数の重なり合った音源の中から、特定の音源だけを選択的に抽出して聞くことができる、人間の聴覚の働きのことをいうんだよ。
周りの騒音がうるさくても、注意を向ければ、自分が聴きたい音だけを聴き分けられるってこと?そういえば、休み時間に、クラスの皆が騒いでうるさい時でも、自分の名前が聞こえて、自分のことを話しているのかなと思うと、話の内容がわかることがあるよ。注意の力で聴くことができるということなんだね。
「 もちろん、周りの騒音のレベルに対して、聴きたい音のレベルが低すぎれば聴き取ることはできないけどね。ただ、おとが言うように、注意の力の働きによって聴くことが可能になるんだ。
それと、この間話してくれた倍音とどんな関係があるの?
少し難しい話になるけどいいかい。自然界では、1つの音源から発せられる複合音の中で、一つの倍音成分だけが強調されることは、ほとんどないんだ。ということは、強調された倍音があると、音源が別にあるということになるだろう。だから、人間は、別の音源から出た音として分離して解釈するだ。
ということは、クラスで10人がわいわいしゃべってると、人間は、10種類の音源があるって区別できるの?
そこまで多いとどうかな。音源ごとに区別するのは、内耳から聴覚神経で繋がっている聴覚をつかさどる脳で処理していることが研究で分かったんだ。
前に説明してくれた内耳は、音の高低を分析する機能を持っているんだよね。その先の脳で、さらに、音源を区別しているということなんだね。
そうなんだ。音源ごとに再統合する過程のことを、プレグマンという研究者が、聴覚情景分析って名づけたそうだよ。同じ音源から発せられた音の特徴としては、倍音が共通だということ以外に、同時に鳴り始めて、同時に鳴り終わるということと、周波数や音が到来する方向の特性の変化が同様に起こって、変化も緩やかということが分かっているんだ。
1本のマイクで収録した音だと、方向感を再現できないから、音源の分離は難しくなるんだろうね。
人間の聴覚ってすごいんだんね。音を録音して、コンピュータで解析しても、音源を区別することはできないのかなぁ?
音声認識の技術は向上しているようだけど、人間のもつ注意の力を工学的に応用できれば、コンピュータが同時に鳴っている音を区別するのは夢ではないかもしれないね。そもそも人間が、このような能力を持っているのは、脊椎動物が、大きな動物から逃げて、小さい生物を食べて生き延びるために備わってきた機能だと考えられているそうだよ。