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おとくん 「 前に、音を左右どちらの脳で聴いているかの話をしてくれたときに、虫の音については、また詳しく話してくれるって言ってたよね。」 おとくん 「 アメリカにはセミがいないのかな。 」 お父さん 「 地方にもよるようだけど、日本の夏に一斉に大きな音で鳴くようなことはないみたいだね。 他にもこんな話も聞いたことがあるよ。 ずいぶん前の話だと思うけど、上野動物園がドイツから象を買ったときに飼育指導のために、ドイツ人が2ヶ月ほど滞在したんだ。 そのドイツ人が帰国するときに、上野動物園からお礼をしたいけど何がいいかと聞いたら、「あの鳴く木がほしい」 って言ったんだって。 」 おとくん 「 それは、セミが鳴いていた木のことを指して言ったの?」 お父さん 「 そうそう。セミの鳴き声とは思わなかったんだね。 」 おとくん 「 去年、国語で川端康成の 『山の音』 を読んだんだ。 そのはじめのところの「八月の十日前だが、虫が鳴いている。」 を、外国の人に説明するのは難しいって、先生が言っていた。 」 お父さん 「 その話はお父さんも聞いたことがあるよ。サイデンステッカーというアメリカ人日本学者の訳は “Though August had only begun, autumn insects were already singing. ” だけど、insects が鳴くという状況と季節感との関連がつかないので,意味が理解できないということなんだね。 」
お父さん 「 虫の音を解析した面白い事例があるんだ。 これは、コオロギと鈴虫の音なんだけど、まず聴いてごらん。 どっちがどっちだかわかるかい? 」
おとくん 「 鈴虫はリーンリーンって鳴くんだよね。 最初に聴いた方がきれいな音だったから、こっちが鈴虫? (虫の音1) 」 お父さん 「 正解! 確かに鈴虫の音の方が、聴いた感じはきれいだよね。 この2つの音を解析すると面白い結果になったんだ。 まず、1/3オクターブバンド解析で比較すると、図1のようにほとんど差が無いんだ。 」 おとくん 「 でも、確かに音の高さについては、近い音だなって思ったよ。 」 お父さん 「 そうだね。両方とも、4 kHz と 5 kHz の音が卓越しているね。次に、前に三味線や鳴き竜の音解析で使った変動音解析でマップを描くと、これもこんなに似ているんだよ。(図2) 」 おとくん 「 変動音解析でも、聴いた感じがこれだけ違うコオロギと鈴虫の差は検出できないってことなの? 」 お父さん 「 おとうさんも、最初あれって思ったんだ。聴いた感覚は、コオロギの音が粗い感じがしたから、きっと変動音解析にかけると差が出ると思ったんだ。 前に解析した、鳴き竜や三味線のさわりのラフネスと言われる濁った感じや、粗さを検出することができたようにね。 でもこれは、単純にマップの軸のスケールの問題だったんだ。 両方とも同じ周波数/変動周波数で時間的に変動していることには違いないんだけど、変動の大きさが違うんだ。 軸のスケールを合わせてみた図(図3)がこれなんだけど、コオロギの変動の大きさは、数値的には、鈴虫の約15倍あることがわかったんだ。」 おとくん 「 虫の音が時間的に変動するのは、翅(はね)を周期的に振るわせて音を出しているから? 」
おとくん 「 三味線のような楽器の音も、虫の音も、また、鳴き竜のような空間がつくる音も、音の高さや大きさだけでなくて、時間的に変動している成分を抽出すると差がはっきりわかるって面白いね。 」 お父さん 「 そうだね。 様々な機械の稼動時に生じる摩擦音の場合は、周波数や変動周波数が、音の発生メカニズムと関連するところから、それが、騒音や異音の対策や音創りに対して重要な情報になるんだ。 」
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■ 図1
■ 図2
■ 図3
お父さん 「
コオロギなどの昆虫は、擦音器官という摩擦音を発生する部位があるんだ。 翅(はね)にある翅脈(しみゃく)といって分岐した条脈の上にのこぎりの歯のような細かい突起があって、この翅脈を肢で高速に擦り合わせることで発音するんだ。 」