

はかるでつなぐストーリー
Ono Sokki Stories
海を渡った軸馬力計
「とにかく暑かった。汗だくになりながら重たい計測機器を抱えて船底の機械室に降り立つと、スクリューにつながる太いシャフトがありました。そこには関係各社の方が肩を寄せ合うようにしていらっしゃって。皆さん必死に機器を点検していました(鈴木)」
1988年、入社したばかりの鈴木盛夫と掛川修二は、日本鋼管の鶴見造船所にドック入りしている南極観測船しらせ5002の年次検査に向かった。この船に採用された当社の軸馬力計の点検を行うためだ。
南極観測船とは高い砕氷能力を持つ船のことで、しらせ5002の場合厚さ1.5mの海氷を時速3ノットで連続航行が可能だった。3万馬力という途方もないパワーで氷を粉砕するために、軸馬力計はトルクや馬力を高い精度で計測することが要求されていた。
「鈴木とMP-966f 電磁式検出器の点検を担当したのですが、清掃および校正(位相調整)を行いました」と掛川は語る。
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小野測器 製造ブロック
センサ製造グループリーダー
鈴木盛夫
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小野測器 営業本部
マーケティングブロック
計測商品グループ 係長掛川修二
入念に行われた点検ののち試験航行が実施され、二人もしらせ5002に乗り込んだ。鈴木は述懐する。
「確か伊豆くらいまで行ったと思います。カレーライスをごちそうになったことを今でもよく覚えています」
あれから35年、二人はしらせ5002の船上にいた。あの軸馬力計に再会するために。軸馬力計はその後も大過なく稼働を続け、しらせ5002とともに日本と南極昭和基地の間を25往復、54万マイル(地球約21周分)航行した。同船は2008年に退役し一般財団法人WNI気象文化創造センター管理のもと、「SHIRASE5002」へ改称。2010年から千葉県船橋港に停泊している。
同センターで事務局長を務める三枝茂氏の案内で、船底へと降りていく。
取材日は9月で比較的涼しい1日だったが、それでも船内は蒸し暑い。「ここじゃない」「そうだね」お互い顔を見合わせる鈴木と掛川。薄暗い機械室にたどり着いたが、シャフトはあるのに、肝心の軸馬力計が見つからない。
「ここだ!」

鈴木が叫んだ。だが残念なことに、点検したシャフトは見つかったものの、MP-966f電磁式検出器は取り外されていた。しらせ5002は退役後一旦スクラップが決定し装備が撤去されたというから、その際逸失したのだろう。
「不思議なものですね。もう30年以上前のことなのに、『この場所は違う』とわかるなんて」と掛川。
二人は汗まみれだったが、入社した頃のフレッシュな笑顔に満ちていた。
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軸馬力計
しらせ5002は3軸推進方式が採用されているが、その各軸に2つの歯車を設置。各々の歯車に対して4つずつ取り付けたMP-966f電磁式検出器により回転信号を取り出し、2つの歯車の位相差を測る仕組み。その位相差信号をPM-488軸馬力計で軸馬力を計測、演算する
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3代目南極観測船SHIRASE5002
現役時は海上自衛隊所属の艦船で、建造当時は世界屈指の砕氷船だった。2008年に退役後、ウェザーニューズ社(現在の一般財団法人WNI気象文化創造センター)が引き取り、2010年より千葉県船橋港にて一般公開が行われている
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同じ原理の計測器 小・中容量用トルク検出器
SSシリーズ軸の左右に取り付けた歯車の位相差を測る。同じ仕組みを採用しているのがトルク検出器SSシリーズ。ロングセラーだ
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一般財団法人
WNI気象文化創造センター 事務局長
三枝 茂氏自身もオブザーバーとして南極観測隊に参加。「砕氷する際クルマで砂利道を走っているような乗り心地でした」
インフラを支える“縁の下の力持ち”
東京に本社を構えるフジテコム株式会社は主に水道管等の検査を行う機器を製造、販売するメーカーだ。
同社は2018年、GPS搭載デジタル4点リアルタイム相関式漏水探知機クアトロコアLC-5000を発売。世界初の機能を盛り込んでおり(発売当時。後述)水道の保守点検作業において大幅なスピードアップを実現する漏水探知機だ。世界50ヵ国以上に輸出されており、7カ国語に対応した世界戦略製品でもある。実は、当社は本製品の開発、製造に深く関わっている。同社の新座研修センサーにてお話を伺った。
「40年ほど前、当時相関式漏水探知機は、海外のメーカーが先行していました。ですが、筐体が大きく、現場では使いづらいものでした。そこで小野測器さんに相談したのが始まりです」
そう語るのは同社で執行役を務める鈴木賢一氏。相関式漏水探知機とは、管路を伝播してくる漏水音を二つのセンサーで捉え、その時間差から、漏水点を算出するものだ。
相談を受けた当社はこれを快諾。当時販売していたポータブルFFTアナライザーCF-300をベースに、デジタル相関回路を組み込んだ初代モデルLC-1000を開発、1982年に販売した。一気に小型化を実現した。
新型LC-5000のポイントは「センサーの4チャンネル化」と「デジタル無線対応」だ。前者はこれまで二つだったセンサーを倍の四つに増やすことで、最大6経路分の相関処理を一度に実行することが可能となる。後者は、電波法改正でデジタル無線に対応する必要があった。フジテコムの営業担当である当社の藍原康司は語る。
「当時、開発担当の西條さんから山のように要望をいただき、驚きました。歴代モデルで一番開発に時間がかかったのではないでしょうか」
「デジタル無線の実装が難しかったです」と、フジテコムの西條和広氏。
「デジタル無線は、ひとつの周波数帯でデータを送信するので、複数のセンサーから同時にデータを飛ばすことができません。それに苦労しました」
LC-5000は努力の甲斐あり、4チャンネル化による6経路同時相関処理は発売当時世界初の製品となった(カナダ、オーストラリアで特許取得済)。小野測器の技術は、世界の水道インフラも支えているのだ。

リアルタイム相関式漏水探知機 クアトロコアLC-5000
2018年に発売。4つのセンサーを用いて6経路分の相関処理を一度に実行することができる相関式漏水探知機。大口径菅の漏水音を探知できるオプションも装備している



LC-5000は、小野測器が外部で組み立てた筐体に基盤を組み込み、半完成状態でフジテコムに納品。画面UIのデザインにも関与。CF-9400A等で培った信号処理技術が活かされている
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小野測器 営業本部
営業統括ブロック
首都圏営業所藍原康司
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フジテコム
執行役
技術開発トレーニングセンター長鈴木賢一氏
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フジテコム
新規事業開発グループ
リーダー太田宏一氏
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フジテコム
技術開発グループ
プロジェクトリーダー
電子回路設計担当上本繁人氏
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フジテコム
技術開発グループ
プロジェクトリーダー
機構設計設計担当関口靖人氏
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フジテコム
技術開発グループ
プロジェクトリーダー
ソフトウェア設計担当西條和広氏