デジタル信号処理の基礎 - 4
「時間軸信号のパワーとパワースペクトル」
前回は、周波数スペクトルの話をしましたが、それを求める目的は、時間軸信号にどのような周波数成分がどれくらいの大きさで含まれているかを調べることにあります。それでは信号の大きさ(あるいは強さ)はどのように定義されるのでしょうか?
正弦波信号のように周期信号の場合は、振幅値(ピーク値)でも定義できますが、いろいろな周波数成分を連続的に含む信号やランダム(不規則)信号の場合は、振幅では定義できません。一般に、時間軸信号
x (t )
の大きさ(強さ)は、2乗(自乗)平均値で定義され、それを信号のパワーと呼びます。2乗平均値を用いれば、どのような時間信号でも定義できます。パワーは本来
電流 × 電圧
のように異なる物理量を掛けて,エネルギーに比例する量(単位時間あたりのエネルギー)のことですが、2乗値を「パワー」と呼ぶのは便宜的な扱いですが、FFT関係では「パワースペクトル」のように広く使われる用語となっています。
さて、周期信号であれば、その周期をTとすると;
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(1) |
となり、これは「区間 0 ~ T までの1周期の面積を
1/T(単位時間あたり)としたもの」です。それでは、ランダム信号のような非周期的な信号はどうするのでしょうか? 厳密には区間無限大 limit
(T → ∽) の積分をする必要があり;
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(2) |
となります。しかし、実際には区間無限大の積分は不可能で、有限時間内の積分となり、そのため推定値となります。
さて、先号で時間軸信号 x (t ) は DFT
することにより「周波数成分毎」のパワーを求めることができ、それを周波数 何Hz
のパワースペクトルと言います。視点を変えてみますと、パワースペクトルは時間軸 x (t )
のパワー全体を周波数成分毎に分解したものですから、パワースペクトルの総和は時間軸信号 x (t )
のパワーそのものとなります。L 個の周波数成分に分解してそのパワースペクトルを P (k ) とすると;
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(3) |
で表されます。FFT アナライザーでは、周波数成分毎のパワーの総和である式 (3)
の右辺を特に「オーバオール」値と呼びます。ここで注意する点は、信号のパワーは振幅の2乗の次元を持つ2乗値です。そこで、その平方根をとることで振幅相当の次元とすることができます。この値を実効値(root
mean square、rms 値)と言います。簡単な例として正弦波の場合、振幅 A V(V はボルト)のパワー(2乗値)Bと
その rms 値 C は
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(4) |
の関係式が成り立ちます。複雑な波形では式 (4) は成り立ちません。 パワースペクトルでは FFT
により正弦波(余弦波)成分に分解できることから式 (4) の簡単な関係式が利用できます。それでは、振幅が 2 V の正弦波と 3 V
の正弦波の合成パワーはいくらになるのでしょうか? これは次回までの宿題とします。
(by Himagine)