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鳴き竜

おとくん 「 この間の修学旅行で日光東照宮に行ってきたんだ。薬師堂にある鳴き竜の下で、お寺の人が拍子木を使って音を出してくれて、竜の声聴くことができたよ。 」

お父さん 「 それは良かったね。なぜ竜が鳴くか説明してくれたかい? 」

おとくん 「 うん。天井と床との反射が繰り返されるからって説明してくれたけど、後から考えると、なぜ、竜のある場所だけで鳴くか、不思議な気もする。 」

お父さん
 「 鳴き竜については、詳しい資料があるから、それで説明してあげよう。竜の絵は、元々は、狩野永真安信(かのうえいしんやすのぶ) によって描かれたそうだけど、鳴き竜のある薬師堂が、1961年に火事で焼けてしまい、1968年に、竜の絵を、堅山南風(かたやまなんぷう)画伯が復元したんだそうだ。 」


おとくん 「 火事になる前から、竜が鳴くことで知られていたの? 」

お父さん
 「 そうだよ。だから、その音を再現するために、模型実験を行って、その効果を確認し、絵だけではなく、音も復元したそうだよ。 」

おとくん 「 へぇー。その模型実験って、どんふうにやったんだろう? 」

お父さん 「 昭和40年に出された論文[1]※には、模型実験の前に昭和28年に実物で測定した結果について次のようなことが書いてある。「繰り返される反射波の数は29 回/秒、60 dB 減衰するのに 2.5 秒、6cm のむくり (天井が2次元凹曲面) のため、中央で手を叩いてた音が、天井と床との往復反射で長く響く」 とね。

図1この図(図1)
にあるように、当時のオシログラフで観察した結果、反射波のパルスが連続してあらわれており、これが竜が鳴くと形容された現象を表してるんだよ。模型実験 (1/4スケール)では、むくりの大きさ、音源の位置による波形の違いを観測して、再現するために必要なことを明らかにしたと書かれている。 」

→ 鳴き竜 復元前と後 (音含む)(Flash)

おとくん 「 でも "むくり" がなくても平行な面があると、往復反射になるんじゃないの?」

お父さん 「 いい質問だ。天井が凹曲面の場合、天井に斜めに入射しても入射した方向に戻るように反射するため、反射波が、音源(受音点)の位置に集中するんだ。でも、天井が平面の場合、真上に入射した音は、その場で床との平行の多重反射を繰り返すけど、斜めに入射すると、その角度分外側へ反射の経路は中央から遠ざかるんだよ。だから、天井が凹曲面だと、繰り返す反射波の数は多く、その時間は長くなるんだ。 」

おとくん 「 でも不思議なんだけど、拍子木の音がビーンって鳴るように聴こえたんだよ。カーンという感じが繰り返される音じゃなかったから、ちょっと驚いたんだ。」

お父さん 「そこが、もう一つの鳴き竜のなぞだね。音が繰り返し聞こえてエコーのようになる理屈は、さっき説明したとおりだけど、もとの音と変わった音に聴こえるには別の理由があるんだ。まず、人間は、継続時間が短い音(パチッという音:パルスという)で連続して聴こえてくる場合、1つの音と音との間隔が、50 ms (0.05 秒) より短くなると音が分離して聴こえず、1つの音として聴こえるんだ。逆に音と音の間隔が 50 ms より長くなると、分離して聴こえる。元の音波がパルスの場合はフラッターエコーといって、パタパタとした音になる。 」

おとくん 「音は、1秒間に約 340 m 進むんだよね。だから 0.05 秒ということは、2つの音が17 m 離れたところから届くと分離して聴こえるけど、それ以下だと一つの音になってしまうということなの? 」

お父さん 「 正確に言うと、おとが聴いているポイントを受音点とする。その受音点に到達する2つの音に時間差が 50 ms 、距離差にして 17 m を境に、2つに聴こえたり、一塊で聴こえたりするということなんだ。だから、日光の鳴き竜は、反射経路の長さからすれば、一つ一つの反射音は分離して聴こえてないはずだね。(※注1)
連続的な音の場合のサンプルがあるから聴いてごらん。
これは、単一周波数(純音という) 1000 Hz の音に周期的な時間変動を与えていて、ゆっくり変動している場合から徐々にすばやく変動させた場合の音のサンプルなんだ。 連続的な音でも、やはりその周期が 50 ms (20 Hz) を超えると、その周期を捉えることができるようになるんだ。」

→ 連続的な音の場合のサンプル(Flash)

おとくん 「ここにある周波数は、1秒間に何回変化しているかを示してるんだよね。 」

お父さん 「 そのとおり。1秒に1回の 1Hz から順番に聴いてみると、なにか気がつかなかったかい? 」

おとくん 「 おとうさんが言ったみたいに、20Hz ぐらいから音が分離しなくなって、50 Hz より高い周波数では、なにか濁った音に聴こえた。 」

お父さん 「 鳴き竜の絵の下での拍子木の音がもとのカーンではなくて、ビーンって聴こえたのは、これと同じなんだ。 同じ周期で時間的な変動が起きている場合、人間は時間の周期の周波数(変調周波数)が 70 Hz 近辺で、もっとも音の粗さを感じるんだよ。 おとが、濁った感じがしたって言ったけど、言い換えれば、音が粗い、ざらざらした感じで聴こえたということだよね。 」

おとくん 「 日光の鳴き竜には、何か不思議な感じがしたけど、それにはこんな理由があったんだね。 」

 

※[1] 佐藤武雄、石井聖光、平野興彦  「日光東照宮の”鳴き竜”復元に関する調査研究」  日本建築学会論文報告集 昭和40年9月

※(注1): 論文[1]では、「1秒に 29回 の反射波」とあり、均等間隔とすれば時間にして 約 35 ms になります。聴感上、フラッターエコーのように音と音が分離して聞こえるのは、ある時間幅に集中した反射波の集合が連続して発生しており、その集合間の間隔が 50 ms を越えるところで、分離して聴こえていると推測できます。

※ 図、写真、鳴き竜の音ファイルは、東京大学 橘 名誉教授にご提供いただきました。


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