おとうさん、このまえ周波数マスキングのはなしをしてくれたときに、時間のマスキングもあるって言ってたよね。時間のマスキングってどういうことなの?
周波数のマスキングは、高さが少しだけ違う音が同時にあったときに、低い音によって、もう一方の高い音の方が聞こえにくくなることだったよね。音がづれたときにもマスキングはおこるんだ。大きな音の直後にある音は、その音がなくなっても、0.1秒間程度の間はマスキングがおこって、その間にある音は聞こえにくくなるんだよ。光の残像現象に似ているね。これを時間(継時)マスキングっていうんだよ。このような人間のマスキング特性は、おとが良く知っているMDなどのオーディオメディアの情報圧縮技術に利用されているんだよ。MDや、最近はやりのMP3は、このようなマスキングの影響を利用して、実際にはある音でもマスキングで聞こえにくくなっている音は、記録しないようにしてるんだ。CDのように音のすべてを符号化しないので、MP3は、データ量も1/10以下に圧縮することもできるんだ。
へえー、マスキングの特性を利用するだけで、そんなにデータが少なくなるんだね。他には、なにか身近に利用されているものはあるの?
うーん、そうだね・・、BGMなんかは、マスキングの効果をねっらって、音楽で、不要な音を聞こえないようにしているとも考えられるよね。実は、こんなところに利用したらどうかなって思う場所があるんだ。おとは、停止中にアイドリングをしないバスに乗ったことがあるかい?
あるけど、それとマスキングの利用とどう関係があるの?
エンジンを止めると、バスの中の音って急に静かになるだろ。これまで、普通に会話していた人たちが、こそこそしゃべっても聞こえるぐらい、静かだろ? あれって居心地が悪くないかい? エンジンを切った瞬間に、同じレベルで出す必要もないけど、ある程度のレベルでエンジンのマスキング音があると、あの居心地の悪さはなくなるんじゃないかな。
そうだね、確かに静かだから快適ということじゃないんだね。
音を付加するということは、それを聞きたくない人にとってみれば騒音でしかないから、慎重にデザインされるべきだけどね。他に、うまくいっている例としては、オフィスで空調騒音をマスキング音として使っているケースがあるよ。オフィスの中は、電話の話し声や、最近では、プリンタやコピーなどのOA機器の音など、様々な音があるよね。他の音がなくて静かな環境だと、逆に、これらの音が気になるんだ。だから、空調騒音のように、騒音としてうるさくないレベルだとあっても気にならない音(これは周波数特性や音色にもよるんだけど)を上手に利用することによって、オフィスの音環境を少しでも快適にする工夫がなされているんだ。
音をつくったり、デザインするのは、音楽だけじゃないんだね
そうだね、最近は、ひろい意味での工業製品、自動車の扉を閉める音から、携帯電話の折りたたむ音まで”音のデザイン”がされているんだよ。それには、コンピュータを使ったシミュレーション技術が欠かせないんだよ。また今度詳しく教えてあげるね。