8. 騒音計の構造

8-1 騒音計のブロックダイヤグラム

下図 8-1 は、騒音計の電気回路の構造ブロック図を示します。ブロック図中、特に、AC 出力(AC out)、DC出力(DC out)の位置関係に注意ください。 騒音計を理解し、使いこなしてゆく上でこの 2 つの出力の違いに注目することが重要となります。

 

イラスト(騒音計ブロックダイヤグラム)

図 8-1 騒音計ブロックダイヤグラム

 

8-2 マイクロホンとプリアンプ

高級ステレオは、小さい音から大きい音、重低音から高音域まで原音を忠実に再生します。原音を忠実に再生するためには、元となる音を正確にキャッチしなければ再生した音は元の音と違ってしまいます。この音を正確にキャッチして、電気信号に変換するのがマイクロホンであり、そのピックアップされた微細な電気信号をあるレベルまで増幅し、インピーダンス変換をするのがプリアンプです。

音は、空気密度の疎密が交互に伝わって行く波動現象であり、騒音計のマイクロホンとプリアンプはこの空気密度の疎密(瞬時音圧)に比例した電気信号に変換するセンサーとして、感度の良いもの、周波数特性の良いものが要求されます。

 

【参考】

イラスト(コンデンサ型マイクロホンの構造)

図 8-2 コンデンサ型マイクロホンの構造

マイクロホンのタイプとしては大きく分けてコンデンサ型、ダイナミック型、セラミック型の 3 種類があります。 騒音計には、音響的に有利な直径の小さな形状にできることや、広い周波数帯域に渡ってフラットな周波数特性を持ち、他の形式に比べ安定性が高いことからコンデンサ型が採用されています。 コンデンサ型の構造を上に図示します。 なお、コンデンサ型にも、バイアス型とバックエレクトレット型の 2 種類があり、その違いは主に振動膜に直流電圧を加えているか、電圧を加える代わりに永久電気分極した高分子フィルムを使用するかです。 なお、一般的には、バイアス型の方がより高感度であるという特長があります。また、騒音計に用いられるマイクロホンは、自己ノイズや温度安定性も重要な要素となります。

 

 

8-3 周波数補正回路(周波数の重み付け)
      Z(または FLAT)、A、C 特性について

騒音の測定には可聴周波数範囲の音圧レベルの絶対測定が必要ですが、耳の感度は周波数によって異なり、単に音圧の実効値をとっただけでは聴感的な音の大きさを表すことはできません。

周波数により同じ音の大きさに聞こえる音圧レベルを表した曲線として、6 章 4 節の等感曲線(等ラウドネス曲線、ISO 226)があります。次図 8-3 の A 特性は小さい音、C 特性は大きい音の聴感として近似して作られ、過去においては音の大きさによりこの特性を使い分けて測定されてきました。その後の研究で、この特性は聴覚的な音の大きさを表すものの、騒音のうるささを表すには適しているとはいえなく、大きい音でも A 特性曲線を使うほうが良いことが明らかにされました。

なお、現在の騒音計には、A 特性と C 特性、それに加えてより平坦な周波数特性を持つ Z(または FLAT)特性が装備され、特に騒音レベルの測定では常に A 特性を使って測定を行ないます。また変動する騒音は 1 回の測定では正確に測定できないので、 後述の長時間のエネルギー平均をとる等価騒音レベル LAeq や、累積度数分布から求める時間率騒音レベル LX が用いられます。 また、C 特性は比較的平坦な周波数特性を持っているので、騒音計の AC 出力を記録するときや、衝撃音(周波数帯で見ると幅が広くなる)の測定に用いられます。Z(または FLAT)特性は、C 特性より更に広い周波数範囲にわたり平坦な特性を持っていますので、騒音計の AC 出力を利用し、周波数特性の保証されたマイクロホンおよび増幅器として、騒音計を汎用の音響センサーとして使用することができます。

 

データ(騒音計の周波数重み特性(A、C、Z))

図 8-3 周波数重み特性(A、C、Z)

 

【補足】:Z 特性と FLAT 特性について

従来の騒音計では、周波数重み付けしないいわゆる平坦(フラット)な周波数特性を “FLAT特性” としていましたが、周波数範囲など具体的なその仕様は、製造メーカに任されていましたから市販されている騒音計の FLAT 特性は、実質的には統一的な仕様となっていませんでした。そこで、新規格では、新たに “Z特性” を定め、その周波数範囲を「10 Hz 〜 20 kHz まで平坦(フラット)」と規定しています。 しかし、許容差なども考慮すれば、現実的には、今まで通り、FLAT特性 = Z 特性 と見なしてかまわないと思われます。<

 

 

8-4 時間重み特性 Fast、Slow について

時間重み特性とは、指示メータ(デジタル表示も含む)の動きに関する規定です。 具体的には、図 8-4 実効値検波回路での平均化の時定数に相当します。 この動特性(時定数)に関しては JIS C 1509 に細かく記載されています。 速い動特性(Fast:125 ms)と遅い動特性(Slow:1 s)があり、Fast 特性は耳の時間応答に近似させたもの、Slow 特性は変動する騒音の平均レベルを指示させるためのものです。 通常、騒音の測定には、速い動特性(Fast)が使用されます。更に、Fast を用いても衝撃音の大きさは正しく測定できないため、このような時には時間重み特性 I(Impulse = 35 ms <立ち上がり>、1.5 s <立下り>)が用意されていますが、この重み特性 I(Impulse)は、最近の研究では「あまり衝撃性の音の評価に適さない」ことがわかっており、IEC(および JIS)では、規格からはずれていて、JIS C 1509-1 附属書 C(参考)となっています。それに代わって、衝撃性の騒音評価パラメータには、瞬時音圧のピーク値を採用する傾向にあります。

 

イラスト(騒音計の時間重みと実効値検波回路)

図 8-4 時間重みと実効値検波回路

 

図 8-5 に時定数 Fast と Slow に 1 kHz のトーンバースト信号(バースト継続時間 200 ms、繰り返し時間 3 s)を入力したときのレベルの変化を示しました。

 

イラスト(騒音計の時間重み(Fast と Slow)の過渡特性(縦軸が対数))

図 8-5 時間重み(Fast と Slow)の過渡特性(縦軸が対数)

  1. 速い動特性(Fast) 人間の耳の時間応答に近似させた値で、立ち上がり/立ち下がりの時定数は 125 ms の値を持つ。

  2. 遅い動特性(Slow) 変動する騒音の平均レベルを指示させるためのもので、立ち上がり、立ち下がりの時定数は1 s の値を持つ。

図 8-4 の実効値検波は、瞬時音圧の 2 乗信号を図 8-6 に示す1次の RC ローパスフィルタに通すことと等価です。 上記の動特性(Fast と Slow)の時定数は、このローパスフィルタの時定数(τ = RC)に相当します。 この等価回路に図 8-5 と同じようにトーンバースト信号を入力したときの立ち上がりと立ち下がりの応答波形を図 8-7 に示します。 この図にあるように、定常入力正弦波の実効値を eiとすると、時定数 τ は;

●立ち上がりは、ei の約 63 %となる時間
●立ち下がりは、ei の約 37 %となる時間

;になります。

 

イラスト(騒音計実効値検波の等価回路)

図 8-6 実効値検波回路

 

イラスト(騒音計の1次ローパスフィルタにトーンバースト信号を入力した時の応答波形)

図 8-7 1 次ローパスフィルタにトーンバースト信号を入力した時の応答波形
(上記の e はネイピア数(自然対数の底)で、e = 2.71828・・・)

 

なお、図 8-5 は Y 軸を dB 単位にとっているため、図 8-7 と違うように見えますが、同じようにリニアスケールで描くと(図 8-8)、速い動特性(Fast)と遅い動特性(Slow)の応答波形の差が良く理解できると思います。

 

イラスト(騒音計の時間重み(Fast と Slow)の過渡特性(縦軸がリニア)

図 8-8 時間重み(Fastと Slow)の過渡特性(縦軸がリニア)