11-7 ラウドネス解析
(ラウドネス、ラウドネスレベル、シャープネス)

ラウドネスレベルは、従来の騒音レベル(LA)では考慮されなかった聴覚上のマスキング効果を含めた音の評価法で、より人の感覚に近い音の大きさを表します。

最近の家庭電化製品では「従来機に比べ 1/2 に静音」などとカタログ等で PR されていますが、その基になるのがラウドネスの値になります。

当社 LA-7000シリーズ 騒音計 の 1/3 リアルタイムオクターブ分析データからラウドネス解析を行なうことができます。 また、「ラウドネス」に加え、心理音響パラメータである「シャープネス」「ラフネス」「変動強度」「AI」「トーナリティ」の 6つの物理量で音を定量化・数値化する音質評価機能も用意しております。

 

(1) ラウドネスとは

イラスト(心理音響評価の考え方)

図 11-12 心理音響評価の考え方

人が音を聞くとき、上図 11-12 のような様々な要因を考慮しながら判断をしています。聞きなれた音等は気にならないなど音に関する感じ方は心理的状態により個人差が有ります。 心理的要素を含んだ評価はいろいろこころみられており、弊社のO-Solution 音質評価機能 OS-0525で音質評価指標を 求めることも可能です。

音質評価を表す諸量のうち音の大きさ(Loudness)にたいする聴覚感覚についてみると、物理的な測定量である音圧レベルに強く依存しており、騒音の評価量として一般的に使用されている 騒音レベル(A 特性音圧レベル A-weighted Sound Pressure Level)は聴覚を模倣するため 40 phon の純音ラウドネス特性(等感曲線 ISO R226)を近似した周波数重みづけを施された音圧レベルとして考え出されました。 しかし同じ音の大きさで 2 つの純音を聞いたとき周波数が離れていると 2 倍の大きさとして聞こえますが、接近した周波数の音の場合は 2 倍の大きさでなくそれより小さい音として聞こえ、これをマスキング効果といいます。

騒音レベルは純音のラウドネス曲線の重みつけをしてもとめた量を表しているため、通常の騒音のように色々な周波数を含んだ音の場合には、人が感じる音の大きさと一致しません。より聴感にあった音の大きさを求めるためマスキング効果を考慮した方法が考えだされ、定常騒音に関するラウドネスの算出方法として ISO 532 で規格化されました。この規格は Stevens, S.S. の方法 A と Zwicker, E. の方法 B の 2つがあります。以下に補足解説をします。

(2) 等感曲線と音の大きさのレベル(phon)、音の大きさ(sone)

次図 11-13 に純音の等ラウドネス曲線(2003年 ISO 226 国際規格)を示します。この図は先の 6 章 4 節「音の大きさのレベル(loudness level)」に掲げたものと同じものです。 6 章 4 節の解説も参考ください。

曲線に付してある数値は音の大きさのレベル(Loudness Level)で、1 kHz の純音の音圧レベル(dB)と同じ値を phon(フォン)という単位で表し、 1 kHz の純音と同じ大きさに聞こえるそれぞれの周波数の音圧レベルを結んで等感曲線として示しています。40 phon のときの等感曲線を近似し A 特性フィルタとして採用されています。 A 特性の重み付けしてエネルギー加算評価した値が騒音レベルになります。 しかし音の大きさのレベルは心理量でなく、一般の複雑な騒音では 50 phon の音が 40 phon の 2 倍の大きさに聞こえるわけでなく、また 40 phon の音 2 つを同時に聞いても 50 phon には聞こえません。 そこで音の大きさを表す単位として 1 kHz  40 dB(音圧レベル)の音を 1 sone(ソーン)として定義し、これと同じ大きさに聞こえる騒音の大きさを 1 sone、その 2 倍の大きさは 2 sone として表します。

 

データ(純音の等ラウドネス曲線(2003 年 ISO 226 国際規格))

図 11-13 純音の等ラウドネス曲線(2003年 ISO 226 国際規格)

また、これを音圧レベル Lp、騒音レベル LA が dB として表示されているように音の大きさも同じように dB に変換しその単位を phon として表します。 音の大きさのレベル L(phon)と音の大きさ S(sone)の関係は L が 40 〜 120 phon の範囲では次式で表されます。

式 11-9

この関係は音の大きさのレベルが 10 phon 増加すると音の大きさが2倍変化することを表しています(S = 2 sone のとき L = 50 phon)。
なお、S < 1 の時は、次式で計算されます。

式 11-10

 

(3) 臨界帯域とラウドネス(Loudness)

人の耳は、音の周波数によりその音を感じる位置が異なり、あたかも周波数分析をしているようになっています。周波数分析のバンド幅に相当する帯域を臨界帯域といい、この臨界帯域ごとにマスキング効果を持つと考えることができます。 例えば、下左図のように 250 Hz と 1 kHz の純音の合成をすると、2 倍の大きさに聞こえますが、250 Hz と 500 Hz の純音の合成は、2 倍に聞こえないのは、臨界帯域が関係し、下右図のように 250 Hz の音が 500 Hz の音を覆い隠すためです。

 

イラスト(ラウドネスとマスキング)

図 11-14 ラウドネスとマスキング

250 Hz の音の大きさは斜線の面積部分にあたり、250 Hz と 500 Hz の音の大きさ(ラウドネス)は上図の斜線部分の面積から求めます。 500 Hz の純音が 250 Hz の純音にマスキングされた部分(重なった面積)は除かれますので、その値は 1 kHz のときに比べ小さい値になり、 より聴感に近い音の大きさを表します。マスキング効果の特徴は 250 Hz の斜線面積を見るとわかるように、低周波側ではマスキング量は少なく(近似的にマスキング無しとしています)、 高周波側に発生する特徴を持ちます。また音が大きいほどマスキングする範囲は裾広がりになります。

 

(4) シャープネス

シャープネス(音の鋭さ)とは、音の甲高さを表し、広域を強調したラウドネスと普通のラウドネスとの比として算出され、単位は acum(アキューム)です。 一般的にラウドネスは迫力感(大きい、迫力がある、力強いなど)と、シャープネスは金属製(かたい、耳障りな、甲高い)との関係があると言われています。

 

(5) 測定例

マスキング効果を考慮して求めたラウドネス(sone)、それから求めたラウドネスレベル(phon)を簡易的に測定し、表示した例を下図に示します。

● 騒音計での表示例

データ(騒音計におけるラウドネス演算表示例)

図 11-15 騒音計におけるラウドネス計算例

ISO 532-1 のラウドネス値は、周波数重みは FLAT(平坦特性)の 1/3 オクターブのリアルタイム分析から求めます。

ラウドネスは、測定が無響室や広場など音の反響がない場所で測定する自由音場のときと、体育館、普通の部屋など音の反響がある場所で測定する拡散音場のときと、計算が変わり、 それぞれ GF、GD のイニシャルを使ってその値を表示していますので、測定環境に合った方を採用してください。

(注意)

正しく測定できる対象音は連続した定常音で、間欠音や衝撃音には適しませんのでご注意ください。 当社製品 「O-Solution 音質評価機能 OS-0525」 では、間欠音や衝撃音等の変動騒音評価のため、時間変動を考慮したより高度の計算処理を行っています。